| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-355 (Poster presentation)
分岐したての生殖隔離が不完全な2種が接触帯を持つ場合、交雑が期待される。この接触帯における雑種形成状況は、種の分化や維持機構の理解に繋がる。ススキスゴモリハダニ種群はススキの葉の裏に寄生し、集団で共同営巣する体長1mm未満の植食性節足動物である。本種群は雌をめぐる雄同士の争いが殺し合いにまで発展し、ハーレムを形成するが、この雄同士の攻撃性の違いにより4種2型に分けられる。中でも攻撃性の弱いトモスゴモリハダニ(以下LW)と強いススキスゴモリハダニHG型(以下HG)はそれぞれ寒冷地と温暖地に適応しており、鹿児島県から静岡県にかけて標高による棲み分けがみられる。室内の交配実験により、これら2種間では交尾が容易に起こるが強い交尾後接合前隔離があること、しかし生殖隔離は不完全であり一部雑種が生じ、雑種には妊性があることが報告されている。長崎県雲仙普賢岳では中標高域における2種の接触帯が確認されており、接触帯では種間交尾が生じていると推測されている。しかし、山の中腹での接触帯形成は一般的なものであるのか、そして接触帯における雑種形成や遺伝子浸透状況については調べられていない。そこで本研究では、静岡県天城山において接触帯を探し、MIG-seq法により得られた一塩基多型(SNP)情報を用いて接触帯における雑種形成や遺伝子浸透状況を調査した。その結果、静岡県天城山においても山の中腹にて広い接触帯がみられたことから、山の中腹における接触帯形成は限られた地域の現象ではないと考えられた。接触帯では種間交尾が起こっていることが野外性比から示唆されたが、SNP情報の解析からは接触帯から雑種個体や遺伝子浸透はほとんど確認されなかった。室内の交配実験では少ないながらも雑種が得られることから、雑種の野外における適応度が低いために遺伝子流動が抑制されている可能性が考えられた。