| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-357  (Poster presentation)

モデルなきミミックはなぜ生じるか?:捕食者の生得的忌避と移動分散の影響
Mimics without models: the effect of innate avoidance and dispersal of predator

*加藤颯人, 瀧本岳(東京大学)
*Hayato KATO, Gaku TAKIMOTO(Univ. of Tokyo)

 捕食者が毒を持つ餌やそれに似た餌を忌避するとき、毒を持たない餌(擬態種)が毒を持つ餌(モデル種)に似るように進化することがある。この現象はベイツ型擬態と呼ばれ、多岐にわたる分類群で報告されてきた。擬態種は一般にモデル種と同所的に生息すると考えられてきたが、モデル種の分布しない場所にも擬態種が分布する例も少なくない。この異所的ミミックは捕食者の移動分散によって生じる可能性が指摘されている。これまでの研究は捕食者が学習で獲得する忌避に主に注目してきたが、生得的な忌避も擬態種の分布に影響を与えるかもしれない。本研究では、捕食者の生得的忌避と移動分散に注目し、異所的ミミックが生じる条件の解明を目的に、理論モデルの構築と解析を行った。
 擬態モルフと非擬態モルフを持つ擬態種と生得的忌避を持つ個体と持たない個体からなる捕食者を想定し解析を行った。擬態種がモデル種生息パッチにのみ分布する場合、モデル種が多いとき、擬態種で擬態モルフが、捕食者で生得的忌避が固定された。モデル種が少ないとき、擬態形質と忌避形質の間で持続的な共進化サイクルが生じた。モデル種がいないとき、擬態種で非擬態モルフが固定するが、捕食者の忌避形質は多型となった。これはモデル種も擬態モルフもいないとき、忌避形質は中立になるためである。
 次に、擬態種がモデル種生息パッチとモデル種不在パッチに生息し、捕食者は生まれたときにパッチ間で移動分散すると想定して解析した。その結果、モデル種生息パッチでのモデル種密度が十分高いときに限り、モデル種不在パッチでも擬態モルフが維持された。この異所的ミミックの発生は、モデル種生息パッチからモデル種不在パッチへ忌避を持つ捕食者が移動することと、モデル種不在パッチで捕食者がモデル種生息パッチへ移動分散する子のために忌避を維持しておくことの二つのプロセスが関係していると考えられた。


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