| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-358 (Poster presentation)
チョウにおけるベイツ型擬態・ミュラー型擬態は進化生物学の発端ともなった歴史があるとともに、現在では最先端の遺伝学的研究の題材となっている。その反面、擬態/非擬態を判別するための実証的・定量的な研究は有名な事例(ドクチョウ類のミュラー型擬態, シロオビアゲハのベイツ型擬態など)を除くと、後回しにされる傾向にある。理由として、捕食実験はハードルが高いことや、見た目の類似度を定量化するのが難しい、といった技術的な問題が挙げられるだろう。後者において、これまでに斑紋の色や形・数のような低次元な特徴に基づく形態計測はなされることがあっても、斑紋同士の位置関係やテクスチャといった高次の特徴に基づいた類似度評価は困難であった。
一方、近年画像分類において急速な発展を続けている深層学習は高度な特徴表現が可能である。特に、大量の画像を分類できるように学習によって得られた特徴抽出器は、画像間の類似度を正確に出力できることが知られており、このような類似度指標であるLPIPSは生物の類似度評価に有効であることも既に分かっている。
そこで発表者らは、LPIPSを用いて南西諸島に棲息するアゲハチョウ科、タテハチョウ科の各種が、有毒種に対してどの程度の視覚的類似度を有しているか定量的に計測した。具体的には、東京大学総合研究博物館所蔵のチョウ類コレクションから32種10枚以上の標本画像を入手し、
・有毒種カバマダラへのベイツ型(一説にはミュラー型)擬態として知られるツマグロヒョウモンの翅模様は、十分な擬態として機能しているのか
・飛翔中に有毒なアサギマダラに見間違われることの多いアカボシゴマダラは、標本画像においてはどの程度の類似性を示すのか
・ジャコウアゲハ、ツマムラサキマダラといった性的二型を有する有毒種では、種内擬態が成立しているのか
を中心に考察する。