| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-359 (Poster presentation)
交尾器形態は種の分類形質として使われるように、種特異的な鍵と鍵穴関係により種内で特殊化する一方で、種間で多様化すると見込まれる。このように種内での交尾器形態の特殊化は種ごとに異なる性選択圧に依ることがいくつかの生物で知られている。一方、交尾器における各部位の機能性と形態の安定性は密接に関係し、機能を喪失した部位で形態が多様化することも示されている。さらに、繁殖遺伝子は基本的に片方の性でしか発現しないため、繁殖遺伝子にかかる選択は緩和されることが理論的に示されている。このような選択の緩和は、鍵と鍵穴関係に反して形態の種内多様化に繋がると予想され、交尾器形態の種内・種間変異の実態に興味が持たれる。そこで本研究では、ナガレトビケラ属の同種群の2種を用い、交尾器形態の変異パターンを非繁殖形質と比較した。本種群の交尾器の各部位の機能性は不明だが、交尾器の一部であるⅩ節、下部付属器端節のサイズの大きな種内変異の存在から、これらの形質はいずれも非機能的だと予想した。しかし、獲得した交接個体の観察により、これら各部位の雌交尾器との接触による機能性が確認された。そこでこれらの部位に加え、非繁殖形質として前翅と前脛節についてセミランドマーク法による形態解析を行った。主成分分析と形態的距離を計測した結果、交尾器形質でより形態の種間差が大きかった。また、種内の形態のばらつきを表すTotal varianceを形質ごとに算出すると、両種の交尾器形質で非交尾器形質に比べて極めて大きな値を示した。さらに、種内の形態変異を集団間で比較すると、交尾器形質で非交尾器形質に比べて大きな集団間変異が見られた。以上の結果から、交尾器形態にかかる性選択と、繁殖遺伝子にかかる選択の緩和が両方作用することで、種内・種間両方で交尾器形態が多様化し、さらに、同種集団内で鍵と鍵穴関係が作用している可能性も示された。