| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-360  (Poster presentation)

近縁な4種のアブラムシが形成する虫こぶにおける捕食者防御戦略の進化
Evolution of defensive strategy against predators in galls among four closely-related aphid species

*水木まゆ(弘前大学), 金子洋平(福岡県保健環境研究所), 雪江祥貴(津黒いきものふれあい), 陶山佳久(東北大学), 廣田峻(東北大学), 澤進一郎(熊本大学), 久保稔(奈良先端大), 山尾僚(弘前大学), 笹部美知子(弘前大学), 池田紘士(弘前大学)
*Mayu MIZUKI(Hirosaki Univ.), Yohei KANEKO(FIHES), Yoshitaka YUKIE(Tsuguro Satoyama Nature Field), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Shun HIROTA(Tohoku Univ.), Shinichiro SAWA(Kumamoto Univ.), Minoru KUBO(NAIST), Akira YAMAWO(Hirosaki Univ.), Michiko SASABE(Hirosaki Univ.), Hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ.)

一部の植食性昆虫では、宿主植物の遺伝子発現を変化させて虫こぶを形成することが知られている。虫こぶには、構造の複雑さや組織の防御物質によって、形成者を天敵から保護する機能があり、捕食圧に対してこのような防御戦略に関わる様々な遺伝子発現を変化させる進化が生じてきたと考えられる。また、このような寄生種の多様化には、その宿主植物における地域系統分化の履歴も影響すると考えられる。そこで本研究では、マンサクの腋芽に虫こぶを形成し、齧歯類が捕食者として知られるHamamelistes属3種のアブラムシと、その近縁種でありマンサクの葉に虫こぶを形成するHormaphis属のアブラムシを対象として、これらの虫こぶにおける遺伝子発現パターンとその防御戦略、さらにアブラムシおよび宿主であるマンサクの地域系統分化を調べることとした。これらにより、虫こぶの多様化がもたらされた進化過程について、防御戦略というマクロな視点と遺伝子発現というミクロな視点の双方から明らかにすることを目的とした。
RNA-seqによって虫こぶ組織の遺伝子発現解析を行った結果、Hamamelistes属2種では防御物質の生合成や虫こぶの成長に関わる遺伝子の発現量が上昇していた。次に、防御戦略の種間比較の結果、この2種では虫こぶの防御物質の量が多く、また、虫こぶの成長が速く齧歯類の捕食圧にさらされる時間が短いことで、アブラムシの生存率が高くなっていることが示唆された。これらのことから、捕食圧によって、防御物質や虫こぶの成長に関わる遺伝子発現パターンの進化が生じ、防御戦略の多様化がもたらされたと考えられる。さらに、アブラムシの系統樹の構築とマンサクの系統地理解析を行って比較したところ、マンサクの地域系統の分布とHamamelistes属のアブラムシの分布や地域系統分化には対応がみられた。したがって、Hamamelistes属のアブラムシの多様化は、マンサクの分布変遷に伴って、過去に各集団が地域間で隔離されていたことによって促進されたと考えられる。


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