| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-361  (Poster presentation)

コアラの化学感覚受容体遺伝子多型とユーカリ食選択との関連解析
Association analysis on chemosensory receptor gene polymorphisms and eucalypt diet selection in koalas

*近藤虎太郎, 早川卓志(北大・院・環境科学)
*Kotaro KONDO, Takashi HAYAKAWA(Hokkaido Univ. Env. Science)

コアラは食物の大半をユーカリの葉に依存する動物であるが,ユーカリに対する選り好みが非常に激しい。この選り好みには地域差・個体差があり,このようなコアラのユーカリ選好性の地域差と個体差は,コアラとユーカリの個体群動態に影響を与えている可能性がある。そこで本研究では,ユーカリ選好性の差異が生まれる遺伝的な要因を明らかにすることを目的とした。選り好みに影響する遺伝子として味覚受容体遺伝子がある。味覚受容体遺伝子は,口腔内で味の検知を担う味覚受容体をコードする遺伝子であり,この遺伝子のアミノ酸配列の変異は味覚の感受性を変化させる。そのため,本研究では味覚受容体遺伝子の変異により生じる味感覚の個体差が選好性の差異を生むと考えた。まず名古屋市東山動物園の飼育コアラ5個体において,Illuminaシークエンサーにより全ゲノム塩基配列を決定した。コアラリファレンスゲノムに対してマッピング後,苦味受容体遺伝子の領域において各個体の塩基配列を網羅的に決定した。またこれら5個体は先行研究でユーカリに対する採餌選択データが取られている(Ogura et al. 2019 JZAR)。この採餌選択データと関連解析をおこない,苦味受容体の塩基配列の個体差がユーカリ選択パターンに影響を与えているかどうか分析した。結果,コアラリファレンスゲノムに24個ある苦味受容体遺伝子(TAS2R)から,98個のアミノ酸を置換させる一塩基変異(SNV)が見つかった。また多型的な偽遺伝子を2個のTAS2Rで発見した。関連解析の結果,Eucalyptus camaldulensisの採食パターンとTAS2R710C上のSNVに関連が見られた。このSNVは苦味受容体の細胞シグナル伝達に影響を及ぼす可能性がある構造上の位置の変異であることから,ユーカリ選択パターンの個体差と直接関係している可能性が示唆された。


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