| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-363 (Poster presentation)
被子植物が自殖を防ぐメカニズムのひとつに自家不和合性が知られている。自家不和合性はS遺伝子座上で分離する多数のS対立遺伝子により規定され、S遺伝子座には雌性因子と雄性因子が連鎖して座乗している。ナス科ペチュニア属における非自己認識型の自家不和合性は、自家花粉由来の花粉管の伸長を阻害する雌性因子のS-RNaseと、非自己のS-RNaseを認識し分解する雄性因子のSLFからなるシステムである。 この自家不和合性システムにおけるS対立遺伝子の新規特異性の進化メカニズムが近年注目を集めているが、その一方で野生集団におけるS対立遺伝子の網羅的な配列情報はほとんど明らかになっていない。S遺伝子座には負の頻度依存選択が働いていることが知られておりS対立遺伝子は非常に多様性が高い。また、S対立遺伝子を規定する雌性因子S-RNaseは、対立遺伝子間で保存されている領域と多様性が高い領域が混在している。以上の理由からS対立遺伝子のジェノタイピングには時間と手間がかかっていた。 そこで本研究では、Nanoporeシーケンサーによる花柱のRNAシーケンスとクラスタリングを組み合わせて雌性因子S-RNaseを効率的にジェノタイピングする手法を開発した。この手法を用いることで、Petunia axillaris ssp. axillarisとPetunia inflataの5集団に由来する66個体から53種類のS対立遺伝子が同定できた。次に、本ジェノタイピング手法の正確性の検討を行った。また、同定したS対立遺伝子の情報を基にペチュニア属の野生集団におけるS対立遺伝子の実態を調べた。最後に、同定したS-RNaseとナス科他属のS-RNaseの系統樹を描き、ナス科のS対立遺伝子の多様化の歴史に迫った。本研究で確立したS対立遺伝子のジェノタイピング手法は、高い精度で効率的にS対立遺伝子を同定でき、他種他属にも有効な手法である。この手法はS対立遺伝子の新規特異性の進化のメカニズムの解明に大きな進展をもたらすだろう。