| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-364 (Poster presentation)
大型の動物であるメガファウナは、小型の動物よりも大型の種子を飲み込むことが可能で、広範囲を移動したあと種子を排泄する。この特性によってメガファウナは、大型の種子を小型の動物よりも遠くまで運ぶことができる。よって、メガファウナは大型の種子を持つ植物の種子散布に関して、特に重要な役割を占めている。しかし氷河期の終わりごろ、多くのメガファウナが絶滅した。種子散布をメガファウナに頼っていた植物の中で、メガファウナと共に絶滅することもなく、大型の種子を現在も維持している植物を進化の亡霊という。進化の亡霊が種子散布者の絶滅による影響を受けず、どのように大型種子を維持しているのかは、大きな謎である。
家畜などの大型哺乳類やヒトが、進化の亡霊の代替種子散布者となっている可能性がある。しかし、これらの動物の歯や胃腸の構造から、散布効率・頻度は低いとされている。私は数理モデルを使って、これらの代替種子散布者の散布効率・頻度が低くても、十分進化の亡霊の維持が可能であると示した。さらに、代替種子散布者がいない場合でも、大型種子を持つ進化の亡霊が存続できる可能性がある。この場合、種子の無生物的散布距離が、種子サイズに応じて大きく異なることが条件となる。具体的には、風や重力、水流によって小型種子は母樹から遠くに散布され、大型種子は母樹の近くにとどまる。この散布距離の差が激しいことが条件である。この条件は、種子の総数が多い小型種子と、種子の生存率が高い大型種子のトレードオフを明確にし、大型種子を進化的に安定にする。このような条件下では、代替種子散布者がいなくても、進化の亡霊は大型種子を維持できる可能性がある。
私は本研究によって、進化の亡霊に代替種子散布者がいるとする従来の研究アプローチを支持し、加えて代替種子散布者がいない進化の亡霊の存在を示唆した。