| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-366 (Poster presentation)
モデル植物であるシロイヌナズナに近縁なミヤマハタザオ Arabidopsis kamchatica は、中部山岳地域の0~3000 m という幅広い標高に分布している。標高間で形質が異なることが知られており、例えば高標高ほど有毛個体が多い傾向がある。毛の有無とAh_GL1の遺伝子型との間に関係があり、無毛系統のAh_GL1遺伝子は有毛系統と比べ遺伝子長が長く、その長さは地域によって異なっている。地域ごとに独立にAh_GL1遺伝子に大きな挿入配列が入ることで機能欠損が生じ、無毛系統が進化した可能性がある。本研究では、環境勾配に沿った毛形質のクラインと毛の進化過程をより詳しく明らかにすることを目的とし、(1)葉・花茎の毛密度および有毛個体割合と標高との関係、(2)集団ごとの有毛個体割合と系統樹との対応関係、(3)有毛・無毛が混合している集団における毛形質の空間分布を調べた。
さく葉標本35集団×1個体について毛の有無・密度を測った。そのうち28集団については、それぞれ20の野外個体から採取された乾燥葉サンプルも観察した。さらに、先行研究の8集団746栽培個体の葉身の密度データと、25集団289栽培個体の花茎の毛の有無のデータ、RAD-seqとリシーケンシングに基づく27集団の系統樹(Hirao et al. Unpublished)を解析に用いた。
その結果、(1)葉・花茎のいずれにおいても、高標高ほど有毛個体割合が大きかった。また、葉の毛密度は高標高ほど高かった。毛の標高クラインが、先行研究よりも詳細に明らかになった。(2)系統樹の中で祖先的な集団に無毛個体が多い傾向があった。これは、無毛系統の挿入配列から予想された無毛系統が派生的であるという予想に反している。有毛から無毛への進化速度が速いために最節約性を仮定した解釈が妥当でない可能性が考えられる。(3)集団内の有毛・無毛個体の空間分布がランダムよりも偏る傾向が見られる場合があり、標高以外の集団内の微環境に沿った葉形質のクラインが存在する可能性がある。