| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-367  (Poster presentation)

昆虫の捕脚の進化における形態学的特徴
Morphological characteristics in the evolution of raptorial legs in insects

*宮地ひかる, 高見泰興(神戸大学大学院)
*Hikaru MIYAJI, Yasuoki TAKAMI(Kobe University)

 捕食性の昆虫において獲物を捕獲する機能に特化した捕脚は,機能的収斂の良い例である.捕脚はカマキリ目,カメムシ目,アミメカゲロウ目,ハエ目といった複数の系統で独立に進化したと考えられ,いずれも前脚の脛節と腿節で獲物を挟んで捕らえるような形態に収斂しているように見える.しかし,捕脚の形態的収斂を定量的に検証した研究は少ない.本研究では,捕脚に見られる機能的収斂は形態の収斂を伴うという仮説のもと,6系統13種の捕脚を持つ昆虫と,それらに近縁で捕脚を持たない6系統8種の昆虫について形態を測定し,系統間での捕脚形態の類似性,歩脚から捕脚への形態進化の方向性,捕脚の進化に伴う捕脚以外の部位の形態進化について解析を行った.
 捕脚を持つ種を捕脚系統,捕脚を持たない近縁種を非捕脚系統として,前脚の各節の長さを測定し,対数変換した値を主成分分析によって比較した.その結果,非捕脚系統の前脚の形態と比較して,捕脚の形態は収斂する傾向がみられた.一方,非捕脚系統の前脚から捕脚への進化の方向性は,系統間で異なる特徴を持つことが明らかになった.また,捕脚系統の中脚と後脚では,近縁な非捕脚系統よりも跗節が短く,脛節と腿節が長い傾向がみられた.さらに,捕脚系統の頭部と前胸においては,近縁な非捕脚系統より前胸背板が長い傾向が共通して見られた.これらのことから,捕脚形態には系統間で収斂がみられるが,それをもたらした進化の方向性は系統ごとに異なり,形態の収斂に関わる進化的変化は多様である可能性が示された.また,捕脚の進化に伴い,中脚,後脚,前胸背板など体の各部位に,捕脚を用いた捕食行動に適した形態が系統間で平行に進化した可能性が示唆された.


日本生態学会