| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-368  (Poster presentation)

日本産クワガタムシにおける共生微生物との共進化からみる生息環境への適応
Habitat adaptation of Japanese stag beetles based on coevolution with symbiotic microorganisms

*上木岳(信州大学), 東城幸治(信州大学), 久保田耕平(東京大学)
*Gaku UEKI(Shinshu Univ.), Koji TOJO(Shinshu Univ.), Kohei KUBOTA(Tokyo Univ.)

白色腐朽材食性のクワガタムシ類の雌成虫は腹端部に菌嚢をもち、その中にキシロース発酵性の強い酵母を保持することが明らかになっている。この酵母は幼虫へと垂直伝搬され、摂食する腐朽材の分解を補助していると考えられる。またクワガタムシ類は祖先的な種群では褐色腐朽材を選好し、派生的な種群は白色腐朽材を選好する。本研究ではクワガタムシと共生酵母の共進化プロセスを明らかにし、クワガタムシ類の生態学的ニッチの多様化メカニズムを追求する。両者の分子系統解析の結果から、クワガタムシ科において白色腐朽材を摂食するグループはキシロース発酵性酵母であるScheffersomyces stipitisに近縁な酵母を保持しているのに対して、褐色腐朽材を摂食するグループではセロビオース発酵性であるScheffersomyces coipomensisに近縁な酵母を保持していることが明らかになった。これらの結果からクワガタムシ類は自身が摂食する腐朽材に残存する成分を代謝する酵母を保持していることが明らかになった。また、シロアリ等によって分解された腐食質を摂食するネブトクワガタ属では酵母が検出されなかった。加えて、ミヤマクワガタ属においては白色腐朽材を摂食するミヤマクワガタではキシロース発酵性の酵母が検出されたが、泥状の腐食質を摂食するミクラミヤマクワガタでは酵母が検出されなかった。以上の結果から、クワガタムシ類において共生酵母の獲得と食性の多様化には密接な関わりが示唆された。さらに宿主クワガタムシ類の食性の多様化にともない共生酵母を独立に喪失してきたことも示唆された。


日本生態学会