| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-370 (Poster presentation)
種内のゲノムサイズ変動は多様な種にみられるものの、そのメカニズムや表現型への影響についてはほとんど知られていない。特に野生種における種内のゲノムサイズ変異についての知見が乏しいのが現状である。陸上植物に最も近縁なホシミドロ目に属する藻類ヒメミカヅキモ(Closterium peracerosum-strigosum-littorale complex)には、国内外から採集されクローンで維持されている野生系統が30系統以上存在する。これまでの研究から、本種内に2倍以上の連続的なゲノムサイズ変異が存在することが明らかになっている。そこで本研究では、ヒメミカヅキモ種内の顕著なゲノムサイズ多型の進化的起源と遺伝子発現パターンへの影響を明らかにすることを目的とした。まず、ゲノムサイズが大きく異なる6系統のロングリードシークエンスデータを用いて、全ゲノム配列の比較解析を行なった。系統ごとにde novoアセンブルした配列データに対して、遺伝子情報を付加しオーソロググループごとに系統関係を推定した。その結果、ゲノムサイズ変異は遺伝子量変異に相関し、その遺伝子量変異は種内で少なくとも4回生じた大規模な重複と系統独立に生じた欠失に由来することが明らかになった。さらに、1系統は由来の異なる3系統のゲノムをもつ異質倍数体であり、サブゲノム間で組み換えが生じていることが判明した。加えて、同所に生息し近縁な2系統間にも約30%の遺伝子にコピー数変異がみられた。続いて、その2系統のRNA-seqデータを用いて、遺伝子発現量比較を行なった。その結果、コピー数変異がみられ発現が検出された遺伝子の内55%以上の遺伝子において、コピー数変異よりも発現量変異が有意に小さいことが明らかになった。これらの結果から、本種内にみられるゲノムサイズ変異は遺伝子重複と欠失に起因し、系統間のコピー数変異は遺伝子量補正が機能することで淘汰されにくくなっていることが示唆された。今後は遺伝子量変異と遺伝子機能の関連について探っていく予定である。