| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-373 (Poster presentation)
生物が新規環境へ進出するには、形態・生理機能・行動など多数の形質を適応させることが必要である。ホルモンは、複数形質の発現に関与していることが多く、複数の形質を同時に変化させる上で重要な役割を果たしていると考えられる。しかし、どのような内分泌システムの変化を経て新規環境へ適応していくのか、そのプロセスは多くが未解明である。
トゲウオ科魚類イトヨは、海に生息していた祖先が、氷期・間氷期サイクルによって形成された多様な淡水域へ進出した。先行研究において、イトヨ淡水型では、基礎代謝・浸透圧調節・回遊行動などに重要な甲状腺ホルモン量が低下しており、代謝や行動活性も低下していることが報告されている。この現象は、北米と日本の地理的に離れた集団でも観察されたことから、我々は、甲状腺機能低下症が、淡水環境への適応に重要であると考えている。共通飼育実験でも、海型と淡水型の間の甲状腺ホルモン量の差は観察されたことから、遺伝因子の貢献が示唆されているが、その差が生じる発生・遺伝基盤の詳細は不明である。そこで本研究では、海型と淡水型をさまざまな環境条件で飼育し、成長過程を通じて、まず甲状腺の形態変化を組織学的に観察することとした。環境要因としては、海水条件と淡水条件に加えて、甲状腺ホルモンの産生に必須のヨウ素添加群と非添加群を準備した。ヨウ素は一般に海水に多く、淡水での含有量は低い。
本研究では、まず、イトヨの甲状腺の位置を同定し、その定量方法を検討した。具体的には、甲状腺ホルモン産生が活発化すると甲状腺濾胞細胞が肥大化し、産生されたホルモンは濾胞内腔に保存されることから、濾胞細胞及び濾胞サイズの比較を実施したのでその結果を報告する。今後は、更に飼育実験を追加し、組織学的比較に加えて、甲状腺刺激ホルモン遺伝子の発現量や甲状腺ホルモン量の観点からも、甲状腺活性の違いを比較していく。