| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-375 (Poster presentation)
クチナガオオアブラムシ属はアブラムシの中で最も長い口吻を持つグループである。一般的に、アブラムシの口吻長は利用する寄主植物に対応して進化してきたと考えられている。一方で、アリとの共生に絶対的に依存した生態をもつ本属のアブラムシでは、口吻長の進化にアリとの相互作用が影響している可能性がある。アブラムシ-アリ共生系においては、アリは甘露排泄量の少ないアブラムシをしばしば捕食することが知られている。ヤノクチナガオオアブラムシを用いた予備調査において、幼虫では口吻が長い個体ほど多くの師管液を吸汁することができ、それに伴ってより多くの甘露を排泄することが明らかになった。このことから、ヤノクチナガオオアブラムシでは、口吻の短い(甘露排泄量の少ない)個体がアリに選択的に捕食されることによって口吻が長くなった可能性が考えられる。そこで本研究では、ヤノクチナガオオアブラムシを材料に、アリが口吻の短いアブラムシを選択的に捕食しているかどうかを明らかにすることを目的として野外調査を行った。松本市内において3つのヤノクチナガオオアブラムシコロニーを用いて、アリに捕食されているアブラムシと捕食されていないアブラムシを採取した。その後、各サンプルの口吻長と、体サイズの指標として頭幅、触角長、中後脚のふ節長を測定した。その結果、アリは体サイズに対する口吻長の短いアブラムシを選択的に捕食していることが示された。また、アブラムシの口吻長平均が特に大きいアブラムシコロニーでは、アブラムシの口吻長とアリの捕食の間に関係性が見られなかった。これらの結果から、ヤノクチナガオオアブラムシの口吻長の進化がアリの捕食によって促進されていることが示唆された。