| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-376  (Poster presentation)

熱帯と温帯域に生息する長寿命樹木における体細胞変異パターンの種間比較
Interspecific comparison of somatic mutation patterns in long-lived trees inhabiting the tropics and temperate zones

*富本創, 佐竹暁子(九州大学)
*Sou TOMIMOTO, Akiko SATAKE(Kyushu Univ.)

地球上の生物種の多様性は緯度が低下するほど増大し、赤道付近の熱帯雨林で最も高くなる。生物多様性の緯度勾配を説明する仮説として、突然変異率や種分化速度が低緯度の熱帯域で高いとする「進化速度説」がRensh (1959)によって提案されて以来、数多くの実証研究がなされてきた。しかし、実際の突然変異率が熱帯地域で高いのかは依然として明らかとなっていない。近年、長寿命植物を対象に個体内に蓄積した体細胞突然変異に関する定量的なデータが得られるようになったが、熱帯樹木を対象とした研究はなく、生息環境間での比較解析はこれまでなされてこなかった。
そこで本研究では、東南アジア熱帯雨林に生息するフタバガキ科ショレア属Shorea laevisと温帯地域に幅広く分布するポプラPopulus trichocarpaにおける体細胞変異の蓄積を比較した。それぞれの樹木から得られたデータを、体細胞変異の蓄積過程をとらえた数理モデルをもとに比較解析し、生息環境の異なる2種間に特有な変異蓄積パターンを検出することを目的とする。
年あたりの体細胞変異の蓄積数を2種間で比較したところ、熱帯のS. laevisでより早い変異の蓄積が推定された。さらに、それぞれの樹木の成長過程で確率的に生じた突然変異が細胞の分裂に伴って個体内で伝播、消失する過程をシミュレーションモデルにより再現した結果、S. laevisP. trichocarpaに比べ、枝単位でも体細胞変異のゲノム多様性が高いことが予想された。またS. laevisから得られたデータを用いて、シミュレーションモデルの突然変異細胞の消失・固定の起こり易さ(個体内における変異の浮動の強さ)を変化させ、モデルのフィッティングを行ったところ、S. laevisでは生じた変異が失われず維持されやすい事が示唆された。


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