| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-378  (Poster presentation)

横縞か、縦縞か?:ボルネオ島のキノボリアトバにおける色彩二型
Banded or Striped ?: Color dimorphism in Dryocalamus from Borneo

*福山伊吹(京都大学), Yazid HOSSMAN(RDID), 西川完途(京都大学)
*Ibuki FUKUYAMA(Kyoto Univ.), Yazid HOSSMAN(RDID), Kanto NISHIKAWA(Kyoto Univ.)

動物の体色パターンの適応的意義は多様であり、その機能は生存戦略として極めて重要である。縦縞(Stripe)と横縞(Band)は多くの種にみられ、それぞれが捕食者回避において適応的であることがわかっている。ヘビでは、いくつかの種において縦縞と横縞の多型を持つ例が知られる。縦縞には体の輪郭を天敵が認識しにくい分断色としての効果や、逃走の際に方向や速度を判断しにくい錯覚効果があり、横縞には隠蔽色または分断色としての効果があると考えられている。これらはヘビの細長い体型ゆえの進化的適応と考えられる。
 キノボリアトバ属(Dryocalamus)は東南アジアに生息する小型のヘビで、ほとんどの種が横縞を持つが、ボルネオ島固有種のミスジキノボリアトバ(以下、ミスジ)はこのグループでほぼ唯一縦縞を持つ。また、ボルネオ島には横縞を持ち、東南アジアに広く分布するバイカキノボリアトバ(以下、バイカ)が本種と同所的に分布している。この2種は体色パターンが明瞭に異なる以外は形態的に非常に類似していることから、種内変異にすぎないのではないかと考え、形態的、遺伝的な解析により分類学的関係を検証した。
 東南アジア全域のサンプルについてmtDNAの部分配列を調べた系統解析では、ミスジとバイカはそれぞれ単系統とならず、ミャンマーのバイカ、マレー半島のバイカ、ボルネオ島のミスジ+バイカの三系統に分かれ、ミスジはバイカに内含される多系統群となった。この2種のボルネオ島の個体群のみを用いたSNP解析の結果、種ごとではなく地域ごとにまとまる遺伝的構造を示した。また形態解析においても、この2種の識別形質とされる頭部の鱗の枚数には個体変異があり、この鱗の形質によってボルネオ島の2種は識別できなかった。以上から、ボルネオ島のミスジとバイカは同種内の形態型であり、本種のボルネオ個体群は同所的に明瞭な縦縞と横縞の2型を示す稀な例であることが明らかになった。


日本生態学会