| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-380 (Poster presentation)
交尾と密接に関わる性的形質においては雌雄間の形質の相関が重要である場合があり、さまざまな選択を受け、複雑な共進化過程を辿ったことが考えられる。体内受精を行う動物の交尾器は、雌雄間で対応した形態を示す一方で、近縁種間では多様化した形態を示すことがある。このような雌雄で対応した交尾器も共進化したと考えられるが、雌雄交尾器がどのように進化したかはよくわかっていない。オオオサムシ亜属は雌雄の交尾器が機能的に対応しており、長さに雌雄で相関した多様性を示す。本研究では交尾器長の長い種と短い種を2種ずつ含む近縁4種に注目し、雌雄の交尾器長に関わる遺伝子発現がどのように種間で変化したかを調べ、雌雄の交尾器長の共進化過程を考察した。遺伝子発現は蛹期の交尾器組織からRNAを抽出し、RNA-seqを行って推定した。種間で発現量の異なる遺伝子を発現パターンに従って各性でクラスター化し、種間の発現パターンと遺伝子オントロジー解析に基づいて、交尾器長に関わる候補遺伝子クラスターを特定した。その結果、オスで2つ、メスで1つの候補遺伝子クラスターが見つかった。各性で見つかった1つのクラスターは交尾器長が類似した種で同様の発現パターンを示した。このことから、交尾器長の類似した種で共通の遺伝子制御機構が存在することが示唆された。一方、オスで見つかったもう1つのクラスターでは交尾器長の長い種間で異なる発現パターンを示し、独立した遺伝子制御機構の変化も重要であることが示唆された。これらのクラスターでは交尾器長に対する発現変化のパターンが雌雄で異なっていた。本研究の結果は、雌雄の交尾器長の共進化の背景には、雌雄間で独立したメカニズムが関わり、交尾器長の類似した種間では共通したメカニズムと独立したメカニズムの両方が関わることを示唆している。これらの結果は雌雄の交尾器長における複雑な共進化過程を反映していると考えられる。