| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-381  (Poster presentation)

寄生者が媒介する捕食抵抗性の進化とその個体群動態への影響 【B】
Evolutionary dynamics of parasite mediated antipredation 【B】

*熊田隆一, 佐々木顕(総合研究大学院大学)
*Ryuichi KUMATA, Akira SASAKI(The Grad. Univ. for Adv. Stu.)

近年、共生者がその宿主に対して、宿主の天敵(寄生者や捕食者等)に対して保護的な効果をもたらす防衛共生(defensive symbiosis)と呼ばれる現象が着目されている(Clay 2014)。中でも、寄生者と捕食者が、同じ生物種を宿主・餌として標的とする状況において、捕食者に対する抵抗性を寄生者が宿主にもたらすことが近年様々な実証例で報告されている。例えば、鱗翅目の幼虫に感染するウイルスが持つ遺伝子が、同じ宿主に捕食寄生する寄生蜂を殺す働きを持つこと(Gasmi et al., 2021)などが知られている。本研究では、寄生者が媒介する捕食抵抗性の進化について、捕食者と被食者のダイナミクスに、被食者に感染する寄生者の感染動態を組み合わせた数理モデルを作成し、Adaptive Dynamics理論のフレームワークの下で、寄生者媒介の捕食抵抗性を進化形質として解析を行った。 寄生者が媒介する捕食抵抗性は、捕食者による捕食圧が高い状況や、寄生者が宿主にもたらす毒性が小さい場合に進化しやすいことが分かった。さらに、最近の実証研究において、防衛共生をもたらす共生体に対する宿主の感受性が、天敵の存在下で進化することが報告されている(Rafaluk-Mohr et al., 2022)。したがって、モデルを拡張し、寄生者に対する宿主の感受性を組み込み、進化形質として解析したところ、宿主は寄生体による毒性のコストがあるにも関わらず、寄生体を積極的に利用するように進化する場合があることが分かった。また、捕食者のダイナミクスからのフィードバックの影響により、捕食抵抗性が高い寄生体に対して、高い感受性を示さない場合があることが分かった。最後に、寄生体の捕食抵抗性と宿主の寄生体に対する感受性を同時に進化させ、共進化動態を解析した。


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