| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-383 (Poster presentation)
イネ縞葉枯ウイルス(RSV)の媒介者として知られるヒメトビウンカには、国内では北海道の個体群を除いて細胞質不和合を引き起こす共生細菌ボルバキアが感染している。また一部の個体群には、ボルバキアに加えてオス殺しを引き起こすスピロプラズマが二重感染していることが知られている。近年、ボルバキアが感染した昆虫では動物ウイルスの感染や媒介が著しく抑制されることが明らかになっており、海外ではすでにデング熱などの蔓延を防ぐ目的で、人為的にボルバキアを感染させたカの野外放飼も行われている。こうした背景から、動物ウイルスに対するボルバキアの影響については数多くの先行研究が行われているが、昆虫が媒介する植物ウイルスへの影響に関してはほとんど知見がない。ヒメトビウンカのボルバキアについては、他の昆虫の培養細胞や生体に導入した場合に動物ウイルスや植物ウイルスを抑制することが先行研究で示されているものの、本来の宿主体内で宿主が媒介するウイルスに及ぼす影響については明らかになっていない。そこで我々は、ヒメトビウンカのボルバキアおよびスピロプラズマが、宿主体内のRSVの量や垂直伝播に及ぼす影響について検証した。抗生物質処理によって共生細菌の感染状態が異なるヒメトビウンカ系統を作出し、体内のウイルス量をRT-qPCRによって比較した。その結果、スピロプラズマ感染の有無はRSVの量に影響しなかったが、ボルバキアに感染したメスは感染していない個体に比べて体内のRSV量が少ないことが明らかになった。しかしながら、宿主の母親から子への垂直伝播率を比較したところ、共生細菌の感染状態による差は見られなかった。以上のことから、ヒメトビウンカのボルバキアは宿主が媒介するRSVの密度を抑制しているものの、その効果は垂直伝播に影響を及ぼすほどのものではないと考えられる。