| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-386  (Poster presentation)

生態的形質置換における双安定性 【B】
Bistability in Ecological Character Displacement 【B】

*森田慶一(東京大学), 山道真人(クイーンズランド大学)
*Keiichi MORITA(The University of Tokyo), Masato YAMAMICHI(The University of Queensland)

群集の種組成が決まる過程(群集集合)には、進化を介した先住効果や生態的形質置換が影響するとされる。進化を介した先住効果では、生息地に先に移入した種が局所適応してニッチを占有することで、後から移入した種が競争排除される。形質置換では、ニッチ分化により2種が共存する。これら2つの機構は、これまで別々の文脈で研究されることが多かった。2つの機構を統合し、どのような条件でどちらが優位に働くかを理解するためには、新たな理論的枠組みが必要となる。本研究では、2種間の競争を表した個体群動態モデル(離散時間のLeslie-Gowerモデルと、連続時間のLotka-Volterra・消費者-資源モデル)に、適応度勾配に沿った量的形質の適応進化動態を加えることで、形質置換による共存と先住効果による絶滅が起こる条件を調べた。ここでは、量的形質が2種間で分化するほど種間競争が弱まる一方で、その生息地における最適値からずれるほど内的自然増加率が低下するというトレードオフを仮定した。また簡単のために、先に移入した種のみが進化すると仮定した。

数理モデル解析の結果、種間競争係数の取りうる最大値が種内競争係数よりも大きい場合には、形質置換による共存と、局所適応して最適値に到達した種が他種を競争排除する状態という、2つの局所的に安定な平衡点が存在すること(双安定性)が明らかになった。この状況で群集集合シミュレーションを行うと、2種の移入タイミングが近い場合には、先に移入した種の局所適応が不十分で、後から移入した種との種間競争を緩和するように形質置換が起こる一方、2種の移入タイミングが離れている場合には、先に移入した種の局所適応によって競争排除が起こるという、進化を介した先住効果が見られた。本研究から、2種の移入タイミングの差が、群集集合における2つの機構の相対的重要性を決めるパラメータであることが示唆された。


日本生態学会