| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-388  (Poster presentation)

非同期シグナルコミュニケーションを
学習する
捕食者・被食者エージェントモデル

Agent-based predator-prey model
  evolving and learning signal communication

*菅野貴成(東北大学)
*Takanari KANNO(Tohoku Univ.)

 本研究では、捕食者と被食者が、同種および別種のシグナルを利用できるかできないかの差によってどのような違いが生まれるかを計算機実験によって評価した。
 ここでは「捕食者」「被食者」「栄養生物」の3つの生物集団があり、捕食者は被食者を食べ、被食者は栄養生物を食べなければ飢餓で死ぬような環境を考える。そして捕食者と被食者はそれぞれ個別のシグナル、「捕食者シグナル」および「被食者シグナル」をシミュレーション空間上に撒くことができる。捕食者と被食者はエージェントとして空間を動き回り、それ以外は濃度分布として格子モデルによって表現され、それぞれ時間変化する。
 各個体は同種のシグナルだけでなく、別種のシグナルも検知できるようになっており、それによって各個体は、内蔵された人工ニューラルネットワークによって移動先とシグナルの放出量を決める。進化は「非同期な遺伝的アルゴリズム」を用い、採餌の上手い個体が子孫をより多く残すことによって行う。
 このような環境下で、それぞれのシグナル検知の効果を調べるために、捕食者と被食者がそれぞれ検知できるシグナルを制限した実験を行った。その制限の仕方は4つあり、何も検知しない「なし」、同種のシグナルのみを検知できる「シグナル」、別種のシグナルのみを検知できる「盗聴」、「シグナル」と「盗聴」両方とも行う「シグナル・盗聴」がある。これら4つの条件が捕食者、被食者それぞれにあるため、その組み合わせの合計16条件存在し、それらの条件ごとにシミュレーションを行った。
 その結果を非絶滅率による違いや個体数の変化の分析を通して、捕食者、被食者に限らず「シグナル」よりも「盗聴」のほうが集団の絶滅に影響を与えることを示し、一方でシグナル検知の差が個体数の変化に対しては大きく作用しないことがわかった。ただし、今後の課題として個体の行動の分析や、より実環境に沿う条件の導入などがある。


日本生態学会