| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-392  (Poster presentation)

外来種マダラコウラナメクジの分布拡大が陸産貝類群集に与える影響 【B】
Effects of range expansion of an exotic slug Limax maximus on terrestrial molluscan communities in Japan 【B】

*小松航, 佐伯いく代(筑波大学)
*Wataru KOMATSU, Ikuyo SAEKI(Univ. of Tsukuba)

 人間活動の国際化に伴い、世界的に外来ナメクジの侵入が問題となっている。我が国においても、過去にキイロナメクジが侵入し、後に移入したチャコウラナメクジに置き換わったと言われている。さらに近年では、大型のマダラコウラナメクジが侵入し、分布拡大を続けている。しかし、マダラコウラナメクジの侵入による生態系への影響についてはほとんど調べられていない。そこで本研究では、本種が移入地域の陸産貝類群集に与える影響について明らかにすることを目的とした。
 調査は、茨城県南部を対象に、マダラコウラナメクジの在地点(n=9)と不在地点(n=6)とを比較する形で実施した。各地点にて、1~2名の調査者が一定時間、陸産貝類を探索し、出現した種と個体数を記録した。またビールトラップを設置し、マダラコウラナメクジとチャコウラナメクジ及び国内外来種であるコハクオナジマイマイの捕獲個体数を記録した。
 マダラコウラナメクジの在・不在地点間で、出現種数およびSimpsonの多様度指数を比較した結果、どちらも有意な差はみられなかった。次に一般化線形モデルを用い、ビールトラップでの捕獲個体数と、半径500m以内の土地利用及びトラップの設置環境との関係を解析したところ、マダラコウラナメクジは、チャコウラナメクジやコハクオナジマイマイよりも、市街地割合が低く、森林率の高い場所に生息する傾向がみられた。しかし他の陸産貝類よりも、幅広い生息環境に出現しており、ジェネラリストとして様々な種と生息環境が重複しうると推測された。マダラコウラナメクジは樹上で繁殖を行うことが知られているが、局所的には人工的な場所で多く捕獲されたため、定着には必ずしも森林を必要としないことが示唆された。本研究では、侵入先の陸産貝類のα多様性に対する顕著な影響は認められなかったが、在来陸産貝類との間で、餌資源を含むニッチの競合が起こらないか注意深く観察していく必要がある。


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