| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-395  (Poster presentation)

外来生物の形質を議論するときは原産地域を考慮しないと意味がない:開花時期を例に 【B】
Biogeographical origin effects on a trait of exotic species: a study of flowering phenology 【B】

*丸山紀子, 河鰭実之, 深野祐也(東京大学)
*Noriko MARUYAMA, Saneyuki KAWABATA, Yuya FUKANO(The University of Tokyo)

どのような形質を持つ外来生物が分布の拡大に成功して問題となるのか、という問いは侵入生態学における重大なテーマである。よって古くから外来生物に特徴的な形質が探索されてきたが、外来生物の形質と外来生物の供給元である原産地域の関係はこれまで検証されてこなかった。ある侵入地の外来生物群集はそれぞれの原産地域の生物地理的な要因に適応してきた生物の集合であるため、原産地域ごとに異なる形質を有しているかもしれない。そこで本研究では、外来植物の開花フェノロジーという生活史形質に着目して原産地域との関係を調べた。
まず、以下の三つの方法で日本国内の植物の開花時期のデータを集めた。外来植物図鑑(約930種)、市民ボランティアによる22年間の調査(在来植物を含む約400種)、1年間の調査(在来植物を含む約200種)である。次に、原産地域に加えて開花フェノロジーの決定要因として知られる植物の情報を図鑑で収集し、これらを説明変数とする一般化線形モデルで解析を行った。その結果、いずれのデータセットでも原産地域が開花フェノロジーに強く影響を与えていた。ヨーロッパ原産の植物は春咲きが多く、北米原産の植物は秋咲きが多かった。さらに、在来植物群集との関係も原産地域によって異なっていた。ヨーロッパ原産の植物は在来植物より早く開花する一方で、その他の原産地域の植物は在来植物と開花時期に有意な違いはなかった。本発表では、原産地域ごとに開花フェノロジーが異なる生態学的理由を検証した結果についても紹介する。
開花フェノロジー以外の形質も原産地域ごとに異なっている可能性がある。原産地域の情報を無視して外来生物の形質を一概に評価してきた従来の方法では、在来生態系への影響を誤って解釈するリスクがある。これまで外来生物の侵入経路や散布体圧、分布域を議論するときにしか使われてこなかった原産地域の情報を、形質の評価にも使うべきだろう。


日本生態学会