| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-404 (Poster presentation)
伊豆大島では特定外来生物であるキョンが増加し,その防除事業が進められている.大型草食獣による採食は,森林の構造や下層植生に影響を及ぼすことが知られており,島嶼である伊豆大島において,キョンが森林生態系へ強い影響を及ぼしていることが懸念されている.外来種対策など野性動物管理において,野生動物が獲得する栄養物質とその量の把握を可能にする食性研究は重要である.しかし,伊豆大島のキョンの採食に関して定量的に評価した報告は少ない.そこで,キョン防除事業により設定された柵内外での植生調査と胃内容物を定量的に評価し,それらを用いてキョンの食物資源選択性の検討を行った.植生調査については,44本のライントランセクト(10m)を設定し,キョンの採食可能範囲と仮定した地上高1m以下の植物を対象にラインに重なった長さを記録した.胃内容物は,2019年9月から2020年7月の間に東京都のキョン防除事業で捕獲された42個体を使用し,ポイント枠によって評価した.植生調査の結果,林床では,オオシマカンスゲ,シロダモなどの優占度が高かった.柵内と柵外で有意な相違が見られた種は,テイカカズラ,オオシマカンスゲ,ヤブニッケイ,シロダモ,ヒメユズリハ,オオバマンリョウ,ハチジョウベニシダ,オオシマシュスラン,オオツルコウジであった.下層植生のデータからそれぞれShannonの多様度指数を算出し,比較した結果,有意な差が見られた.キョンの個体数管理が行われていない柵外の林床植生の多様性が低いことが示唆された.このことから,キョンの生息が伊豆大島の林床植生に影響を及ぼしていることが示唆された.また,キョンの胃内容物から,現地の林床において優占しているオオシマカンスゲが検出されなかったことから,キョンが選択的に食物資源を利用していることが示唆された.