| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-406  (Poster presentation)

果樹園で繁殖する絶滅危惧鳥類アカモズの個体数減少に生活史戦略が与える影響
The impacts of the life history strategy on population decline of the Brown shrike breeding in orchards

*赤松あかり(北海道大学, 長野アカモズ保全研), 青木大輔(北海道大学, 長野アカモズ保全研), 松宮裕秋(長野アカモズ保全研), 原星一(長野アカモズ保全研), 古巻翔平(北海道大学, 長野アカモズ保全研), 髙木昌興(北海道大学)
*Akari AKAMATSU(Hokkaido Univ., N. Brown shrike Conserv Gr.), Daisuke AOKI(Hokkaido Univ., N. Brown shrike Conserv Gr.), Hiroaki MATSUMIYA(N. Brown shrike Conserv Gr.), Seiichi HARA(N. Brown shrike Conserv Gr.), Shohei FURUMAKI(Hokkaido Univ., N. Brown shrike Conserv Gr.), Masaoki TAKAGI(Hokkaido Univ.)

ここ数十年で世界中の渡り鳥と農地性鳥類の個体数は大幅に減少している。これらの鳥類多様性維持には、繁殖成功と環境の変化といった 個体数の減少要因の区別によって個体群動態の仕組みの理解が重要である。個体群統計パラメータ(巣立ちヒナ数、生存個体数、移出個体数、移入個体数)や生態的特徴(土地執着性)といった、繁殖要因と環境要因(地域・営巣木スケール)を 区別した個体数の減少要因研究はアジアでは少ない。本研究では日本の渡り性かつ農地性鳥類 で、過去100年間で繁殖分布域を90.9% 縮小させた亜種アカモズを用いて、繁殖要因、環境要因の両方を考慮して個体数の減少要因の解明を試みた。調査はアカモズの推定個体数の半数以上を占めるとされる長野県の果樹園地帯5地域(A–E)で行った。2012–2021年のアカモズ個体群は、2020年以降減少していた。個体数と個体群統計パラメータの年変動の相関を見た結果、巣立ちヒナ数が個体数に最も影響を与えている可能性が示唆された。 また、前年の繁殖成功は翌年の分散距離に負の影響を与えていることが示唆された(p < 0.01)。他の地域個体群への分散は確認されず、地域個体群への土地執着性があると考えられる。 地域(A, C, E )により営巣成功率に違いが見られ(p < 0.05)、個体数が最多の地域Eの営巣成功率が最も低かった。また繁殖の失敗要因の80.0% は巣における捕食であり、捕食者は地域Cでは2種、地域Eでは5種が観察された。以上より、繁殖要因と環境要因が相乗効果を生み、個体群動態に影響を与えていることが予測された。つまり、個体数が最多の地域Eで巣における捕食者の種数が他の地域よりも多い結果(環境要因)、巣での捕食が多く、巣立ちヒナ数が減少し(繁殖要因)、個体数が減少している現状が予測された。さらにアカモズの土地執着性(繁殖要因)により、繁殖場所を他地域に変えないため、 営巣成功率が低い地域Eに留まり繁殖することも減少の一因と考えられる。


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