| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-407  (Poster presentation)

筑波山系周辺におけるガムシの生息状況: 里山の希少水生昆虫の保全に向けて 【B】
Ecological occurrence of giant water scavenger beetle around Tsukuba Mountain Range:  Toward conservation of  threatened aquatic insects in Satoyama 【B】

*山中基成, 佐伯いく代(筑波大学)
*Motonari YAMANAKA, Ikuyo SAEKI(University of Tsukuba)

水生昆虫は里山生態系の重要な構成要素であるが、近年急速に減少しており保全が急務である。ガムシは東アジアを中心に分布する大型の水生昆虫で、環境省の第4次レッドリストでは準絶滅危惧種に指定されている。ガムシの成虫は雑食で、プラストロンを利用する独特の呼吸タイプをもつことから、生態系内で特異な役割を担っていたり、他種とは異なる環境要求性を示す可能性がある。そこで本研究では、ガムシの生息環境を調査し、保全のための基礎情報を得ることとした。調査は、筑波山系周辺の里山景観にある26カ所の水田と溜め池を対象に実施した。各調査地点では、目視と網での掬い取りによってガムシの個体数を記録した。また、ガムシの生息数に影響を与えている環境要因や、他種との生息環境の違いを調べるため、環境タイプ(溜め池/平地の水田/谷津田)、pH、EC、水草の量、他の止水性水生昆虫種の在・不在などを記録した。一般化線形モデルによる解析の結果、ガムシの個体数は、pHは低く(7.08~8.53)、ECは高く(0.07~0.29 mS/cm)、水草の多い谷津田で増加する傾向がみられた。これは、茨城県のレッドリスト種の出現種数を応答変数とした解析においても共通してみられる傾向であった。一方、他の種については、種ごとに異なる特徴がみられた。例えばガムシに近縁なコガムシについては、平地の水田に多く、pHとの関係性が弱いなど、ガムシと別の傾向を示すモデルが選択された。出現種の呼吸タイプ別に生息環境の特徴を比較したところ、プラストロン呼吸を行う種は比較的広い生息環境に出現しており、ガムシの生息環境の特性はプラストロン呼吸をもつ水生昆虫全体に共通するものではないと考えられた。以上から、ガムシの保全には、石灰肥料や農薬、除草剤の利用が少ない谷津田が重要であり、これらの環境は筑波山系における他の希少水生昆虫の保全にも重要であると推察された。


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