| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-409 (Poster presentation)
湧水湿地は、季節を通して環境条件が安定しており、そこには固有性の高い生物相が形成されるという特徴を持つ。しかし湧水湿地の生物は減少が顕著で、レッドリスト掲載種も多い。本研究では、印旛沼(千葉県)の流域にある、谷津(小規模な谷地形)を対象に、湧水に依存して分布する種のハビタットモデルを構築し、分布に影響する環境要因を明らかにするとともに、分布ポテンシャルマップを作成し保全上重要な地域を検討した。
本研究では、湧水に依存して生息する節足動物であるサワガニおよびオニヤンマ幼虫を対象とした。分布に影響する環境要因としては、土地利用・気候・地形要因を考慮した。2種の分布を把握するための現地調査は、印旛沼の流入河川である神崎川、桑納川および高崎川流域内でランダムに選んだ37カ所を対象に行った。2種の生息確率に与える要因の影響と分布の予測はMaxEnt と一般化線形モデル(GLM)で検討した。
現地調査の結果、サワガニ・オニヤンマ幼虫共に23か所で分布を確認した。MaxEntの結果から、両種は環境変数に対する反応に似た傾向を示し、河川から近く、8月の平均気温が低く、500メッシュ内の浸透面割合の高い場所で生息確率が高かった。傾斜の変数は特定の範囲内で生息確率が高くなる単峰性を示した。得られた分布ポテンシャルマップから、谷津における生息確率を抽出したところ、種間の類似性は高かった(r = 0.94)。GLMではサワガニについてのみ予測力のあるモデルを作成することができた(AUC > 0.7)。GLMの結果、サワガニは8月の平均気温が低く、河川に近く、地形的に湿潤になりやすい場所で生息確率が高いことが分かった。これらの結果は、湧水依存生物は温度変化に敏感であることや、生息適地の維持には周辺の雨水浸透面の規模が重要であることを示唆している。また得られたマップは、優先的に保全する場所の検討などに活用することが期待される。