| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-411 (Poster presentation)
湿地の中でも特に高い生物多様性を有する氾濫原湿地は、農地転換などの土地開発により面積が減少し、汚染や外来種の侵入も問題となっている。先行研究では、氾濫原湿地に代わり、人工湿地が生物の生息地となることが示されている。砂利の採掘により創出される人工湿地であるGravel pit pond (GPP)には魚類を含む多様な生物が生息する。しかし氾濫原湿地との比較はなく、GPPが創出される農地景観において生息地としての機能が明らかになっていない。よって本研究では、農地景観においてGPPの魚類の種組成や個体数を氾濫原湿地である残存湖沼、ワンドと比較し、GPPの魚類の生息地としての機能を明らかにすることを目的とした。
北海道十勝平野に位置するGPP、残存湖沼、ワンドの各5地点で調査を行った。環境調査では水質の指標(電気伝導度、溶存酸素 量、pH、濁度、水温)と生息地構造(水深、河川からの最短距離、面積)を調べた。魚類調査では、各地点で定置網1枚とかご網2枚を岸辺に24時間設置し、捕獲した魚類の種数と個体数を記録した。得られたデータを元にGLMを用いて環境要因と種数と個体数を、NMDSとPERMANOVAを用いて種組成を各水域間で比較した。
環境調査の結果、ワンドが水温、河川からの最短距離、面積において他の水域と比べて有意に値が小さくなった。在来種の種数、個体数に水域間での差はなかったが、種組成は、各水域間で有意に異なっていた。このことから、GPPが他の水域とは異なる種組成の魚類に生息地を提供し、地域全体の湿地性魚類のγ多様性向上に寄与していると考えられる。出現した絶滅危惧種は各水域で異なり、遊泳力が低く、生息地が点在する農地景観に広く定着することは難しい。よって絶滅危惧種を含む湿地性魚類の生息地として機能するGPPを、失われてしまった自然湿地の代替地として保全することを検討する必要がある。