| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-416 (Poster presentation)
河川上流域に生息する魚類は森林伐採や砂防ダムなどの開発により,各地で個体数を減らしていることが報告されている.ナガレホトケドジョウLefua torrentisは他に魚類が生息できないような低水量細流域でも生息できるフクドジョウ科の魚類である.本種も多くの渓流魚と同様に開発の影響を受け,環境省RLでは絶滅危惧種にも選定されているが,非繁殖期の秋冬期における生息場所の知見は不足している.本種を保全するためには,フェノロジーを考慮した,非繁殖期を含む年間を通して適した河道特性を明らかにすることが必要である.本研究では,河道区間約220 mに存在する70箇所の淵で2021年10月~翌年2月に捕獲調査(各月1回)と物理環境調査(10月,2月)を実施し,それぞれの結果を比較することで本種の秋冬期生息淵の特性を明らかにすることを目的とした.
調査地は兵庫県円山川水系上流域である。滝と砂防ダムに挟まれた区間であり、魚類は本種しか生息しない.捕獲調査は,500 mlのペットボトルで作られたモンドリを各淵に1つずつ設置し,1時間後に回収した.回収後はその場で捕獲個体数,体長を記録し,元の淵に戻した.さらに,11月以降の調査では個体識別に使われる腹部白色線形状の写真も撮影した.物理環境調査では,淵長,淵幅,淵面積,淵中央部の水深・流速,最大水深部の水深・流速,カバー率,樹冠被覆率,河床材料の10個の環境要因を計測した.
捕獲調査の結果,秋季(10月,11月)にはそれぞれ42,48箇所で,冬季(12月,1月,2月)にはそれぞれ17,5,6箇所で捕獲され,厳冬期になるほど確認箇所が減少した.10月のデータを用いて,各淵における本種の個体数と10個の環境要因との間でピアソンの相関分析を行った結果,淵長,淵幅,淵面積,最大水深と正の,流速と負の有意な相関が確認された.発表では,70箇所の淵の物理環境の経時変化や本種の移動特性も提示して,本種の生息に重要な河道特性についてお示ししたい.