| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-420  (Poster presentation)

野辺山高原におけるサクラソウ群落の送粉ネットワークからみた保全生態学的研究
Conservation ecological study from the viewpoint of pollination network of Primura sieboldii communities in Nobeyama Plateau.

*井出萌, 大窪久美子(信州大学)
*Moe IDE, Kumiko OKUBO(Shinshu Univ.)

サクラソウは原野等の明るい湿生環境に生育する多年性草本植物で、全国的に自生地が減少し、長野県では絶滅危惧種(VU)に指定されている。本研究では、野辺山高原に生育する本種個体群を群落および送粉ネットワークの視点から現状把握し、保全策を検討することを目的とした。調査地は信州大学農学部附属AFC野辺山ステーションおよび矢出川流域の湿性林で、本種個体群を含む群落の把握として草本層と立地環境の調査は6月~10月に、木本層の調査は9月に行われ、シュートの花型および繁殖状況の調査は5月上旬~7月上旬に実施された。また、ポリネーターと訪花昆虫を解明するため、ポイントセンサス法での調査は5月上旬~6月上旬に、衝突板トラップ法およびマレーズトラップ法による捕獲は5月に実施された。さらに本種とポリネーターをめぐり競合する植物種を把握するため、ルートセンス法の調査は6月に実施された。植生調査の結果、全調査地は大きく5群落型に分類され、さらにレンゲツツジ-ズミ群集、ヤチダモ-ハルニレ群集、ハンノキ-ヤチダモ群集の3タイプにまとめられた。また、本種の優占度および繁殖状況の傾向は、特にレンゲツツジ-ズミ群集に分類された乾生かつ遷移程度の低い群落で良好であった。一方、ヤチダモ-ハルニレ群集やハンノキ-ヤチダモ群集に分類された湿生かつ遷移の進んだ群落では上述の両項目は低い傾向だった。さらに、前者の群落型では、ポリネーターとなり得る昆虫の出現個体数についても多い傾向を示した。このような傾向の理由として、現地では湿地の氾濫でによる攪乱が生じることにより、かえって本種個体群の生育立地が維持されてきたと考えられるが、近年はこの現象が低下しているため、下層植生の優占度が高くなり、本種の繁殖およびポリネーターの減少が起きたと考えられる。なお、本研究は一般財団法人長野県科学振興会研究費助成金を受けて実施した。


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