| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-422 (Poster presentation)
【目的】
世界中で減少している湿地や湿原生態系では、周辺農地由来の土砂堆積による生態系の劣化が問題となっている。長野県の菅平湿原は周辺農地からの土砂堆積によって、1968年から現在にかけて急速な森林化が起き、多くの湿原性植物種が消失していることを私たちが明らかにしている。本研究は、菅平湿原内の堆積土を除去することで湿原植生が復元するかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
堆積土を除去する「除去区」、除去した堆積土を積み上げる「盛り土区」、表面の堆積土を下部の泥炭層と入れ替える「天地入れ替え区」、自然な根返りによって泥炭層の露出と盛り土が起きた「根返り穴区」と「根返り盛り土区」、1987年の河道直線化工事以前の旧河道跡に「旧河道区」、そして「対照区」の7処理区を設け、それぞれに1×1 mの区画を8-24個(計108個)設置した。2020年6-9月、2021年5-9月に出現した維管束植物を記録し、各年9月に種ごとのバイオマス量を測った。
【結果と考察】
2年間の調査で78種の植物を確認したが、1968年以降の記録がないかつての湿原性種は再生しなかった。種組成は処理区によって異なり(PERMANOVA、 p < 0.01) 、攪乱強度や土壌含水率、植生高の影響を受けていた(p < 0.05、envfit)。湿性植物は旧河道区や根返り穴区で、外来種は盛り土区で、木本植物は根返り盛り土区で、出現種に占める割合が大きかった(Kruskal-Wallis検定、Bonferroni補正、p < 0.05)。また、盛り土区や根返り盛り土区では乾生植物が指標種として検出された。バイオマス量は、攪乱を伴う処理区では対照区より小さかったが(GLM、尤度比検定、 p < 0.01)、除去区と天地入れ替え区では2年目に増加・回復した(GLM、尤度比検定、p < 0.01)。
堆積土除去によって、湿原性種を増やすことはできたものの、消失種が埋土種子から再生することはなかった。植生再生と同時に周辺農地からの土砂流入を防止していくことが湿原の保全に重要である。