| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-424 (Poster presentation)
世界的にイノシシによる農作物被害が大きな問題となっている。日本において、イノシシは1970年代には主に西南日本を中心に分布していたが、2000年代に入ると分布域を北に広げ、近年では北陸や東北地方の一部にも生息が確認されるようになった。このようなイノシシの分布変遷に伴い、富山県においても近年では甚大な農作物被害が引き起こされており、要因の究明が求められている。これまでに実施されたイノシシによる農業被害に関する研究によると、森林の分布が被害の発生に深く関わっており、森林の近くに分布する耕作地において発生確率が高まることが予測されている。しかし、農業被害の発生に影響を及ぼす要因が、経年的にどのような変化を示すのかについて評価した研究例は少ない。本研究は、富山県で発生したイノシシによる農作物被害を対象に、その発生の背景にある環境要因を抽出し、その経年変化を明らかにすることを目的に実施した。解析には在データのみを利用することで発生確率を予測するMaxEntモデルを用い、2015年から2020年までの間に発生した農作物被害を対象とした。各年において、被害発生圃場の位置を明らかにした上で、標高及び対象となる土地分類区分(建築物・河川・森林・竹林・牧草地等)までの距離を被害要因として用い、出力した確率分布を被害発生予測として扱った。モデルの精度を表すAUCはいずれの年においても0.9以上の高い値を示した。これまでに報告されていた結果と同様に、森林からの距離は被害発生に影響を及ぼす要因として高い貢献度を示した。さらに森林植生をスギ林とそれ以外に分けた場合、スギ林が最も高い貢献度を示した。一方、竹林についての貢献度はそれほど高くはないものの経年変化が大きく、イノシシ個体群が縮小したと考えられる2020年においては最も高い値を示した。これらの要因に関する経年変化について考察を行った。