| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-430  (Poster presentation)

シデコブシの保全遺伝学的研究:集団ゲノミクスによる遺伝的多様性と集団構造の解明
Conservation genetic study of Magnolia stellata: genetic diversity and population structure revealed by population genomics

*久田和磨(名古屋大院生命農), 玉木一郎(岐阜県森文ア), 戸丸信弘(名古屋大院生命農)
*Kazuma HISADA(GSBS, Nagoya Univ.), Ichiro TAMAKI(GAFSC), Nobuhiro TOMARU(GSBS, Nagoya Univ.)

 シデコブシは愛知、岐阜、三重という限られた地域にのみ分布する日本固有種であり、自生地の消失や里山利用の減少に伴う植生遷移により絶滅が危惧されている。そのため、保全を目的とした様々な基礎研究が行われており、これまでに分布全域の集団を対象とし、アロザイムと核マイクロサテライト、葉緑体マイクロサテライトを用いて解明された遺伝的多様性と集団構造が報告されている。しかし、一塩基多型(SNP)を遺伝マーカーとしてそのような研究を行った例はほとんど存在しない。また、これまでの研究によって三重県北部のシデコブシ集団は最も祖先的なシデコブシ集団であるという仮説が立てられるが、その仮説を裏付けるような研究は存在しない。しかし、シデコブシと極めて近縁であるコブシとの遺伝的関係を調べることで、この仮説を検証できる可能性がある。そこで、本研究では、分布全域のシデコブシ集団を対象に、多数のSNPを遺伝マーカーとし、遺伝的多様性と集団構造および近縁種であるコブシとの遺伝的な関係を詳細に調べることを目的とした。シデコブシの分布全域にわたる24集団とシデコブシの分布域周辺に分布するコブシの8集団を合わせた全32集団384個体を対象に7000座以上のSNPを用いて集団ゲノミクス解析を行った。シデコブシの遺伝的多様性は岐阜県から愛知県にかけての地域と三重県北部地域の集団で高く、愛知県渥美半島の集団で低いことが確認された。シデコブシの集団構造を調べた結果、地域内においても集団間の遺伝的分化が極めて高く、階層的な構造を有することがわかった。また、シデコブシとコブシの遺伝的関係を調べた結果、三重県北部のシデコブシ集団は最も祖先的なシデコブシ集団である可能性が示唆された。得られた結果をもとに、本研究ではシデコブシの具体的な保全策についての議論を行った。


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