| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-431  (Poster presentation)

ゲノムワイドデータから推定されたアユモドキの集団構造と歴史的個体群動態
Population structure and historical demography of the Japanese botiid loach (Parabotia curtus) inferred from genome-wide data

*井戸啓太(京大院理), 阿部司(ラーゴ), 岩田明久(京大院AA), 田畑諒一(琵琶博), 山﨑曜(遺伝研), 鹿野雄一(九大決断科学), 伊藤僚祐(京大院理), 渡辺勝敏(京大院理)
*Keita IDO(Kyoto Univ. Sci.), Tsukasa ABE(LAGO), Akihisa IWATA(Kyoto Univ. AA), Ryoichi TABATA(Lake Biwa Museum), Yo YAMASAKI(National Inst. Genetics), Yuichi KANO(Kyushu Univ.), Ryosuke ITO(Kyoto Univ. Sci.), Katsutoshi WATANABE(Kyoto Univ. Sci.)

アユモドキは日本に生息する唯一のアユモドキ科魚類であり,近畿地方と山陽地方の2地域に限定的に生息する.本種は雨季の増水に伴い形成される一時的水域(氾濫原)に侵入して繁殖・初期発育を行うなど,アジアモンスーン気候に適応した生活史をもつ.氾濫原環境およびその代替地としての水田周辺環境の人為改変の影響を大きく受けた結果,本種は深刻な絶滅の危機にある.そこで我々は,本種の進化的に重要な単位(ESU)を明確にし,分布域形成史の解明や保全に資するために,ゲノムワイドSNPデータ(RAD-seq,MIG-seq)とミトゲノムデータを取得し,まず残存する全5集団(うち1集団は飼育集団)について遺伝的集団構造を明らかにした.集団構造解析の結果,山陽の3集団のうち,2集団は近縁であるものの明瞭な分化を示し,もう1集団では両集団の要素の混合がみられた.また近畿の現存集団と同水系由来の飼育集団(野生絶滅集団)は,近縁ながらも明瞭な遺伝的差異を示した.山陽と近畿の集団間の遺伝的分化の程度は小さかった.山陽の2集団と近畿の1集団について歴史的個体群動態を推定した結果,共通して最終氷期に有効集団サイズの縮小が起きたと推定された.文献記録を含む生息地情報に基づく生息適地モデリングの結果,アユモドキの出現確率は夏に暑く,雨季によく雨が降る,水量豊かな場所で高く,これは本種の生態をよく反映したものであった.また最終氷期極大期には生息適地が極めて縮小し,現在の生息地がレフュージアとなった可能性が示唆された.以上の結果は,本種が最終氷期に現在の生息地に分断されたことを示唆し,集団構造を踏まえた地域集団ごとの保全・管理の必要性を強調する.


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