| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-433 (Poster presentation)
生物多様性保全では、地域にある在来知がその地域の生態学的な知識であるという側面から、注目し活用されている。一方で、現代は気候変動や人やモノの移動が大規模化しており、過去の生態系に適応した在来知が現在には適応できない可能性もある。本研究では、伝統養蜂の在来知と外来感染症を対象に、生態系の変化に伴い在来知が機能しにくくなる場合があるかの検証を目的とした。長崎県にある離島、対馬では、今もニホンミツバチの伝統養蜂が全島で行われている。しかし、2014年に島内にサックブルードウイルス病が侵入し、それ以降、全島に蔓延し、伝統養蜂の飼養群数は激減している。サックブルードウイルス病とは、ミツバチ類に感染する感染症で、ニホンミツバチに感染すると成虫に症状は出ないが、幼虫は高い致死率を示す。また、対馬には対馬市ニホンミツバチ部会という養蜂についての任意団体が活動している。本研究では、対馬市ニホンミツバチ部会の会員の報告による2011年からの飼養群数の記録のべ220件と気象データを用いた統計モデルによる解析と、対馬の養蜂家22名への在来知とサックブルードウイルス病感染履歴の聞き取り調査、39か所の養蜂の巣箱の設置環境調査を行った。設置環境調査では、開空率と外気温を記録した。過去10年の個体数の増減から、暖冬の年に個体数の減少がとくに顕著な傾向にあった。巣箱の設置環境の調査からは、東側の開空度が高い設置環境で感染が起こりやすい傾向が示唆された。温度や巣外に出ていく働きバチの数から、働きバチが多く巣内外を出入りすることで感染リスクが上がると考えられる。しかし、伝統養蜂では、「南東の空が開けて明るい所に巣箱を設置すると良い」とされていた。そのため、この在来知は外来感染症の侵入により適さなくなりつつあることが示唆された。今後は、在来知を活用するためには、生態学的な背景の推定と、自然環境のモニタリングも必要であろう。