| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-435 (Poster presentation)
【目的】棚田は中山間地域の農業生産に重要な役割を果たすほか、環境保全機能や文化的価値も有する。しかし近年、農業人口の減少により棚田の耕作放棄地は減少しており、棚田の多面的機能の低下が危惧される。棚田放棄地では湛水機能低下による地すべりの誘発や、被覆植物の繁茂による鳥獣被害増加などの報告がある。棚田の機能維持や保全に向け、放棄地では草刈りや畦畔整備等の管理が推奨されている。このような管理の土壌保全への有効性を明らかにすることは再耕地化や土壌管理を検討する上で重要である。本研究では保全管理下にある放棄後の経過年数が異なる棚田放棄地の土壌の特徴を比較し、保全管理下での放棄年数経過が土壌の特徴の変化に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】中山間地域にある栃木県茂木町入郷の石畑の棚田を調査地とした。放棄後3年目の放棄地(3年放棄地)と放棄後50年以上経過した放棄地(50年放棄地)の2地点を選定し、土壌断面形態、土壌の一般理化学性、土壌酵素活性、土壌微細形態を調査した。
【結果と考察】土壌断面形態では、両放棄地の表層でともに強度に発達した団粒構造が観察され、各層位で根の侵入を示す糸根状や管状の斑紋および孔隙が多く観察された。また、50年放棄地ではO層が形成され、すき床層は消失していた。土壌の一般理化学性と土壌酵素活性では、 50年放棄地で、仮比重が低下し、孔隙率、透水係数、根量、pH、有機炭素量、全窒素量、β-グルコシダーゼおよびプロテアーゼ活性が増加していた。土壌微細形態では、50年放棄地で植物根の増加と強度に発達した軟粒状構造が確認され、孔隙の発達および土壌動物の排泄物増加が顕著であった。このことから保全管理下の放棄地土壌では、有機物の供給と土壌動物の活動が増加し、土壌構造の発達と土壌有機物量が増加した肥沃度の高い土壌へと変化することが明らかとなった。