| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-439 (Poster presentation)
ダムによる河川の分断化は遡河性魚類の産卵移動を妨げ、個体数や生物多様性の低下をもたらす。このような負の影響を解消するために、魚道の設置やダムのスリット化、部分撤去などの自然再生事業が進められてきたが、その効果評価は一部の施設での実施に留まっている。分断化が遡河性魚類の産卵に与える影響を広域的に明らかにすれば、自然再生事業の事前効果評価が様々な河川において可能になる。そこで本研究では、北海道全域における遡河性サケ科魚類3種(カラフトマス、サケ、サクラマス)の産卵適地を推定し、分断化が産卵環境をどの程度減少させているか評価することを目的とした。
3種の産卵適地は主に河床粒径によって規定され、最適な粒径は種ごとに異なる。我々は、北海道開発局が取得した粒径データを用いて、北海道全域の産卵適地の分布を明らかにした。河床勾配や集水域面積などを説明変数とし、ニューラルネットワーク、一般化線形モデルを用いて粒径予測モデルを構築した。テストデータを用いて構築したモデルの予測精度を評価し、最も予測精度の高いモデルを選択した。選択したモデルを用いて産卵適地を地図化し、ダムの位置データと重ね合わせることで分断化が3種の産卵環境をどの程度減少させているかを評価した。
解析の結果、ニューラルネットワークの予測精度が最も高かった。北海道全域での推定産卵適地長は、カラフトマスが14558 km、サケが17786 km、サクラマスが30054 kmとなった。また、産卵適地の分断率は種ごとに異なり、カラフトマスは42.5%、サケは49.6%、サクラマスは59.5%の産卵適地がダムにより利用できなくなっていた。サクラマスの分断率が高かったのは、他種に比べて産卵適地がより上流に分布することによる。自然再生事業の計画の際には、本結果を元に複数種の産卵適地の回復可能性を検討することが重要である。