| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-441 (Poster presentation)
知床半島のヒグマ個体群は,世界有数の高密度状態である。ヒグマは雑食であり、季節に応じて様々な餌資源を利用している。その中でも夏季は餌資源が少なく、夏季に利用可能な餌資源はヒグマの行動に影響を与えると考えられる。その中でもサクラ属は餌の少ない時期に多くの実をつけるため、ヒグマが果実を餌資源としていることが報告されている(Shirane et al. 2021 Ecol Evol)。よって、サクラ属果実は餌が豊富となる時期までのつなぎの役割をする重要な餌資源であると考えられる。
本研究では知床100平方メートル運動地内(開拓跡地)の幌別地区を調査対象とし、ヒグマの餌資源であるエゾヤマザクラの空間分布を調査した。エゾヤマザクラ開花期の5月上旬にUAVで対象地を上空から撮影し、オルソモザイク画像を作成した。オルソモザイク画像の目視判読によりエゾヤマザクラ個体の個体数、位置情報、樹冠サイズを計測し、計1128個体のエゾヤマザクラ繁殖個体を検出した。それらの位置情報と分布位置の森林属性、標高、傾斜角、傾斜方向をもとに、エゾヤマザクラ個体の分布適地をMaxentを用いて解析した。さらに、エゾヤマザクラ樹冠サイズと森林属性、地理情報との関連をGLMにて解析した。Maxentによる解析の結果、エゾヤマザクラ個体は針葉樹林、針広混交林の密林に分布する傾向が最も強く表れた。エゾヤマザクラの樹冠サイズは、分布適地と同様の森林タイプで有意に大きかったほか、林齢も正に影響していた。運動地内で個体が最も多く分布していた林齢は50年前後だった一方、運動地外の国有林ではほとんどの林分が98年生だった。そのため、同じ針葉樹林、針広混交林でも、幌別地区内では老齢の国有林に大きな個体が集中している結果となった。運動開始から45年経ち、開拓跡地内にもエゾヤマザクラの分布が回復していることが明らかになったが、果実成熟期にはより餌資源を期待できる運動地外の国有林にヒグマの行動が集中する可能性が示唆された。