| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-442 (Poster presentation)
世界中で同時かつ急速に進行する都市化により、生物多様性が大きく変容している。都市域における生物多様性は、鳥類による害虫捕食や、メンタルヘルス改善効果など様々な恩恵をもたらすため、その保全は重要な生態系サービスに繋がる可能性を持っている。しかしながら、都市域における生物の生息地は常に開発の危機に晒されている。本研究は、都市化により失われた生息地の代替となりうる環境として、史跡に着目した。史跡は歴史的価値の保全が目的となっており、土地の開発による生息地改変が起きにくく、草刈りなどの維持管理によって人為攪乱が継続されやすいという特徴を持っている。しかし、歴史的価値の保護と生物多様性の関係は世界的にもほとんど明らかでない。
本研究では、東京大都市圏に位置する、近世の土木遺産として保全されている玉川上水を対象に、都市の史跡の保全と植物多様性の関係について検討した。都心から郊外までの広範囲で植物調査を実施し、植物種数と植物種組成に対して、史跡保全とそれ以外の環境、景観、空間構造が及ぼす影響の相対的重要度を検証した。
植物種数には史跡の保全管理が、種組成には史跡の空間的構造が重要な要因として検出された。結果から、都市域における史跡の維持は、土地改変が行われないこと、および植生管理の継続によって、植物の多様性が保全されている可能性を示した。