| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-444  (Poster presentation)

コウモリの安定同位体による農地利用頻度推定及びGC-MSによる残留農薬試験の試み 【B】
Estimation of agricultural land-use using stable isotope and pesticide residue test by GC-MS in wild bats 【B】

*吉田創志, 藤井紀帆, Olga HEIM, 藤岡慧明, 中村祐士, 大江洋平, 飛龍志津子(同志社大学)
*Soshi YOSHIDA, Kiho FUJII, Olga HEIM, Emyo FUJIOKA, Yushi NAKAMURA, Yohei OE, Shizuko HIRYU(Doshisha Univ.)

コウモリは一晩で体重の1/3もの昆虫を捕食することから,農地を餌場とする種は害虫を駆除する益獣と言える.しかし食物連鎖の上位に位置することから生体濃縮によって高濃度の残留農薬にさらされている可能性があり,害虫駆除という生態系サービスをコウモリから持続的に享受するためにも,また多くの希少種を含むコウモリの保護の観点からも,コウモリ各種の農地利用頻度と残留農薬濃度を把握することが肝要である.
農地利用の推定に関しては,シカにおける農作物の食害対策などに関連して,毛髪中の安定同位体比を指標として用いた研究が行われている.一般に肥料が施されている農地では窒素安定同位体比が高く,また農作物の種類によっては炭素安定同位体比も高くなることを用いた推定である.残留農薬試験に関しては,猛禽類で臓器などから検出されおり,毛髪をサンプルとしてコウモリに応用できれば,保全も考える上でより侵襲性の低い手法として有用だと考えられる.
そこで本研究では,森林性のキクガシラコウモリと解放空間性のユビナガコウモリの生体サンプルを採取し,窒素および炭素の安定同位体比の測定を行った.結果,森林性に比べて解放空間性のコウモリの方が窒素安定同位体比が高く,農地上空も餌場として利用している可能性が示された.今後,糞便のDNA解析や餌となる昆虫の同位体解析を行いたい.次に,野生のキクガシラコウモリの毛を採取し,GC-MSによって残留農薬の検出を試みた.結果,有機リン系農薬およびその代謝物の抽出と分析を試みたものの,農薬由来と考えられる物質は検出されなかった.コウモリは残留農薬にさらされていないのか,抽出方法に改善が必要なのか,今後検討する余地がある.
コウモリの毛における残留農薬の評価方法が確立できれば,特別栽培農法を積極的に行う地域と慣行農法を行う地域間での残留農薬濃度の比較などができると期待している.


日本生態学会