| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-445  (Poster presentation)

森林スポーツ大会が自然環境に与える影響の評価
Assessing the impact of forest-sporting events on natural environment

*小牧弘季, 佐伯いく代, 津村義彦(筑波大学)
*Hiroki KOMAKI, Ikuyo SAEKI, Yoshihiko TSUMURA(University of Tsukuba)

近年、森林スポーツの愛好者が増加し、新たな森林利用形態として注目されている。しかし、スポーツによる過度の森林の利用は、植生や土壌に負荷を与え、不可逆的な環境変化をもたらすおそれがある。我が国においては、国立公園での大会実施時に簡易的なモニタリング調査が求められているが、植生や土壌への影響を詳細に調査した例はほとんどない。そこで本研究では持続的な森林スポーツの実施方法を検討するため、特に人為攪乱に脆弱な山岳域において、森林スポーツ大会が自然環境に及ぼす影響を評価した。
 調査は、オリエンテーリング(OR)およびトレイルランニング(TR)を対象として、計3つの森林スポーツ大会を対象に行った。まず大会の前後で選手が通過する地点に8~9の調査区を設け、植生被度、植物の種数、植物高、および土壌硬度の変化を記録した。さらに、これらと競技の種類、通過人数、立地(湿地の有無)、地形(平坦/斜面)との関係を一般化線形モデルで解析した。その結果、どの項目もトレイルから外れるORの方が大きな変化を示す傾向にあった。またORでは通過人数よりも立地の影響が大きく、特に湿地では、植生被度、植物の種数、および植物高が顕著に減少した。TRでは植生への影響はあまり見られなかったものの、通過人数の増加や雨天時の開催によって土壌硬度が下降する傾向がみられた。これらのことから、森林スポーツ大会の影響を緩和するためには、コース設定、参加人数、開催頻度などを競技特性に応じて検討することが有効と考えられた。例えば、ORなどトレイルを外れて走行する競技では、選手が多数通過するポイントに、保全価値の高い植生や湿地を含まないようにすることが重要である。一方、TRなど歩道を走行する競技では、植生への影響は少ないものの、通過人数や気象状況によって土壌への影響が大きくなるため、侵食防止など道の保全に重点をおいた対策を行うことが効果的である。


日本生態学会