| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-002 (Poster presentation)
有害なアリ類の防除において,遅効性の殺虫成分を含有するベイト(薬剤ベイト)の使用は欠かせない.その一方,薬剤ベイトがアリ類のコロニーを崩壊させるメカニズムについては見過ごされてきたに等しく,不明な点が多い.薬剤ベイトがアリ類の採餌行動を利用したものであることを加味すると,アリ類の集団的な採餌行動と薬剤曝露による中毒症状由来の行動阻害は,コロニーの崩壊を決定する重要な要素である可能性が高い.そこで本研究では,遅効性薬剤ベイトが有するコロニーレベルの致死効果(コロニー崩壊のリスク)と採餌行動および薬剤曝露にともなう行動阻害との関係を精査した.50 ppmのフィプロニルを含有する薬剤ベイト(実防除現場で使用される濃度)を野外で散布したところ,処理によってアルゼンチンアリは著しく個体数を減少させた一方,その他アリ類の個体数はあまり減少しなかった.また,室内で採餌行動を観察したところ,アルゼンチンアリは他のアリ類(クロヒメアリ,トビイロシワアリ)に比べ,明らかに採餌行動が迅速であり,時間あたりの餌獲得個体数は常に2倍程度多かった.さらに,フィプロニル曝露後における各種のノックダウン時間を調べたところ,種を問わず曝露40分後からノックダウンが始まり,60分後には曝露個体の半数がノックダウンした.これらのことから,採餌行動が迅速な種(アルゼンチンアリ)は薬剤に曝露してからノックダウンするまでの間に,採餌行動が迅速でない種(クロヒメアリ,トビイロシワアリ)よりも多くの個体が薬剤ベイトを獲得することが示唆された.以上を踏まえ,採餌行動の迅速さやノックダウン時間などは,コロニー内における薬剤曝露個体数,すなわち集団レベルの致死(コロニーの崩壊)に影響することが考えられた.