| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-004 (Poster presentation)
現生鳥類の約20%は繁殖地と非繁殖地の間を毎年移動する。ミヤマガラスはヨーロッパでは留鳥として知られているが、東アジアでは渡り鳥として知られ、日本へは越冬のために渡来する冬鳥である。本種は鳥類における渡りの進化や適応的意義を考える上で興味深い研究対象と言える。国内では、以前は九州が主な越冬地であったが、現在ではほぼ全国に拡大している。また、複数の地域でねぐらの形成場所が郊外の山林から都市部へと移動し、糞害が問題となっている。本研究では、都市ねぐらが確認されている佐賀市と熊本市において、2017〜2020年にミヤマガラス集団の越冬生態を調査した。秋から翌春にかけて、佐賀市においてねぐら入り前の集合をしているミヤマガラスの個体数の推移を調査し、両市の中心部における夜間のねぐら形成場所の推移を記録した。また、両市において本種の採餌場所を調査するとともに、ペリットおよび有害鳥獣駆除によって得られた個体の胃の内容物を確認した。ミヤマガラスは10月中旬から確認され始め、12月にかけて増加し、1月から減少に転じ、4月には見られなくなった。両市とも、本種の越冬集団は留鳥のカラスと混合ねぐらを形成していた。採餌集団は、佐賀市ではねぐらから平均6.3kmの距離で確認され、ねぐらからの方角には偏りが見られなかったが、熊本市では平均9.7kmと有意に長く、方角は南側に偏った。採餌集団の構成個体数は佐賀市では平均約150羽、熊本市では約100羽であり、有意に異なった。これらの違いは、市街地の規模や農耕地の分布によるものと考えられた。両市とも、ペリットからは越冬期間を通して主にイネ籾が確認され、季節によっては昆虫の破片やスクミリンゴガイの蓋などが確認された。胃の内容物からはイネ籾に加えオオムギやコムギの種子も確認された。ミヤマガラスは越冬期間を通じてイネの落ち籾を主に採餌していると考えられた。