| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-006  (Poster presentation)

北限の生息地陸奥湾における希少種ウミニナの個体群動態:成長量と温度環境
Interannual changes in population structure of endangered mud snail Batillaria multiformis in Mutsu Bay: effects of temperature on shell growth

*金谷弦(国立環境研), むつ市立川内小学校5年生(2015~2018年度), 山田勝雅(熊本大・水循環セ), 五十嵐健志(Mutsu Bay Dolphin Research)
*Gen KANAYA(NIES), Members at the fifth-grade classes in FY2015 - FY2018(Kawauchi Elementary School), Katsumasa YAMADA(Kumamoto Univ. CWMD), Takeshi IGARASHI(Mutsu Bay Dolphin Research)

ウミニナは干潟に生息する希少な巻き貝であり(環境省RL:NT)、分布北限は青森県陸奥湾である。陸奥湾内では数カ所の干潟で生息が確認されていたが、2007年にむつ市川内町の人工海浜「かわうちまりんび-ち」で新たな個体群が確認された。私達は、むつ市立川内小学校と連携し、本干潟でウミニナの生態研究に取り組んできた。本講演では2014~2019年までに得られた成果を報告する。
 本研究では、現場の測点で5年間に計4回方形枠採集を行い、空間分布と個体群構造を調べた。また、マーキングにより現場での成長を2年間追跡した。月ごとに17~40個体を採取して固定し、生殖腺の発達段階を目視により評価した。また、干潟の地温、近傍海域の水温およびむつ市の気象データから、調査年毎の温度環境を評価した。
 ウミニナは、夏期には潮間帯全域に広く分布していたが、秋~冬に低潮線付近に集まった。最大殻長は50mmに達し、個体群は1~4個のコホートから成った。本生息地のウミニナは8~9月に産卵し、秋に着底して翌春に殻長4~6mmとなり、同年秋(1歳)に同5~10mm、その後3年で同20~25mmに達すると推定された。成長は7~8月に最大となり9~4月に停止した。着底後4~10年(殻長24~50mm)で成熟するが、殻長36~44 mmでも約半数が未成熟であり、陸奥湾の個体は南の個体群に比べより大きく成長し、性的成熟も遅い。年間成長量は2014~2016年の間で大きく異なり、成長が最大だった2016年8月(4.59mm 殻長 30-d-1)は日照時間が長く、干潟の平均地温も26.4℃と前の2年よりも1.9℃以上高かった。
 以上の結果は、北限の生息地である陸奥湾では、夏場の温度がウミニナの年間成長量を規定する重要な要因であることを示している。気候変動にともなう温度の変化は底生動物の生活史特性を変化させると予想され、その影響は分布の北限付近でより顕著となる可能性が示唆された。


日本生態学会