| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-007 (Poster presentation)
農業生態系は野生生物の代替生息地として有用であり、希少種を保全する上で重要な役割を持つ。ツマグロキチョウは絶滅危惧種に指定されており、幼虫はマメ科のカワラケツメイのみを食草とする。カワラケツメイの自生地は開発による環境の悪化により減少している一方で、四国や中国地方では伝統的にカワラケツメイをお茶として栽培する文化があり、その栽培地にツマグロキチョウが生息している。そこで本研究では、高知県におけるカワラケツメイの栽培地と自生地に生息するツマグロキチョウを対象に、階層モデリングを用いて個体数を推定し、個体数と発見確率に影響を与える要因を分析した。二項N混合モデルによる解析の結果、ツマグロキチョウの推定個体数はカワラケツメイの植生面積にしたがって増加し、その傾向は初夏よりも晩夏のほうが顕著だった。また、晩夏では栽培地のほうが自生地よりも個体数が多くなる傾向があった。ツマグロキチョウの発見確率は風速の増加と反復の実施によって低下した。以上の結果から、カワラケツメイの栽培地はツマグロキチョウの代替生息地として機能しており、条件によっては自生地よりも好適な生息環境を提供していることが示唆された。本研究で見られた検出確率の変動は、個体数推定の際に検出確率も考慮する重要性を示唆している。