| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-008 (Poster presentation)
屋久島の瀬切川・大川の上流域、標高800-1300mの地域で、2000年から2019年まで、ニホンザルの個体数の変動を調査した結果と、その背景の森林の変化を報告する。調査地は、スギを主体とする原生的な針葉樹林、調査開始時点で伐採から7‐18年経過し、伐採後、植林を行わずに自然の更新に任せた天然更新地、伐採後19–27年経過し、伐採後にスギを植林した植林地、の三つの植生に分けられた。ニホンザルの調査は、毎年8月に、ボランティアの調査員を集めて、定点調査と集団追跡を組み合わせて実施した。調査開始時点では、天然更新地でサルの密度が高く、原生林がそれに次ぎ、植林地で低かった。その後、原生林と植林地については密度の経年変化はなかったが、天然更新地では2005‐2008年にかけて、前年に比べて密度が減少する傾向があった。2002年と2019年に合計26の調査区(5m四方)で実施した植生調査の結果を比較すると、天然更新地と植林地のいずれも、木が太くなり、本数が減り、胸高断面積合計が増加する傾向があった。スギ以外の広葉樹を伐採する除伐によって、天然更新地でほぼスギだけになってしまった区画が存在した。2002年からほぼ毎年実施した天然更新地にある上記植生調査区内での液果の生産量の調査によると、毎年の豊凶の変動が大きく、単位面積当たりの生産量について、明確な増減傾向を見出すことはできなかった。空中写真の予備的な分析結果によると、調査開始当時裸地であった天然更新地の多くが、自然に更新したスギに置き換わっていることが認められた。調査開始当時は、伐採後間もない場所でヒサカキやハイノキなどの広葉樹が、サルの食物となる果実を多く生産し、サルの密度も高くなっていたものの、遷移が進み、また人為的に広葉樹を除去する管理が行われたことで、相対的に天然更新地での食物量が減少し、サルの密度も低下したと考えられた。