| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-013  (Poster presentation)

なぜ屋久島はアカウミガメの北太平洋最大の産卵場なのか? 孵化特性からの洞察 【B】
Why is Yakushima Island the largest rookery for loggerhead sea turtles in the North Pacific?: an insight from hatchling characteristics 【B】

*畑瀬英男, 渡邊俊(近畿大学農学部)
*Hideo HATASE, Shun WATANABE(Kindai Univ.)

 絶滅が危惧されている生物を適切に保護管理するためには、何が現在の集団サイズを決めているのかを理解する必要がある。一般にウミガメの卵を高温で孵化させると、孵化幼体が小型化し、孵化幼体の巣からの脱出成功率が低下するため、子供の生残に負の影響が生じる。ゆえに気温が変動する産卵地では、孵化特性もしくは子供の生残は季節及び年変異を示す。しかし過去の研究から、屋久島では、他の雨の少ない産卵地で報告されているような、高温による孵化幼体の体サイズの縮小が起こらないことが示唆された。これは別々の年に異なる浜で孵化させた移植巣の実験結果に基づいたものだったので、同じ環境で孵化させて検証する必要が生じた。そこで本研究では、同一年内に同じ場所へ移植した巣の孵化特性の比較を2年間行うことで、孵化特性もしくは子供の生残が季節的な温度上昇と共に低下するのかを検証した。
 2020年は6月下旬と7月中旬に、2021年は5月下旬と6月下旬~7月上旬に、鹿児島県屋久島永田いなか浜において、産卵個体調査を毎晩実施した。2020年は6月に12巣、7月に11巣、計23巣を、2021年は5月に9巣、6~7月に10巣、計19巣を、浜上部の植生手前の砂地へ移植した。2020年は8月中旬から9月上旬に、2021年は、8月上旬から9月上旬に、孵化・脱出調査を毎日実施した。脱出してきた幼体3~20頭の体サイズを計測した。初脱出確認日から数日後に巣を掘り返して孵化・脱出成功率を調べた。
 両年とも孵化幼体の体サイズと脱出成功率は季節的に低下せず、子供の生残は季節的に不利にならないことが示唆された。子供の生残は個体群成長に直接関わるので、このことは屋久島で産卵するアカウミガメの集団サイズが北太平洋最大であることの一つの理由なのかもしれない。こうした孵化特性の季節的安定性をもたらす要因として、屋久島の降水量の多さや、永田浜の白くて粗い砂が挙げられる。


日本生態学会