| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-015 (Poster presentation)
環境省レッドリスト(2020)で絶滅危惧II類に指定されているヤエヤマハラブチガエルNidirana okinavanaは、森林伐採等に伴う湿地の消失により生息状況の悪化が懸念されているが、個体群の存続可能性に着目した研究は少ない。本研究では、本種の繁殖状況と遺伝的構造を明らかにするために、複数の地域個体群を対象に齢構造解析及び遺伝学的解析を行った。
2019年7月~2021年10月に石垣島6地点、西表島5地点で165個体を捕獲し、後肢指骨の一部を試料として採取した。齢構造解析では155個体を対象にスケルトクロノロジーにより年齢を推定した結果、1-5歳の個体で構成され、2歳になると性成熟に達することが示唆された。多くの地点では2-3歳の個体が占める割合が約90%と高く、4歳以上の個体の割合は顕著に低くなった。個体群の齢構造から繁殖状況を検討した結果、9地点では繁殖が継続的に行われているが、2地点は一時的に繁殖できなかった年があったと考えられた。遺伝学的解析では106個体を対象にミトコンドリアDNAのCOⅠ遺伝子(1,554bp)の配列を決定した結果、19のハプロタイプ(Hap01〜19)が検出された。そのうちHap02、Hap03は両島の広範囲に分布していたが、2地点で確認されたHap01を除くHap04〜Hap19はそれぞれ1地点のみで確認された。各地点のハプロタイプ多様度(h)及び塩基多様度(π)を比較すると、多様度は個体群間で異なっていた。h、πともに最も低い値を示した1地点は他の地点とハプロタイプを共有していないことから、他の集団との遺伝的交流が長期間分断されていると考えられた。
以上のことから、地域個体群によっては安定的な繁殖環境もあれば、ボトルネックを経験した地点があることが示唆された。本研究の結果は、個体群の保全の優先度を検討する上で有用な指標となるだろう。