| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-018 (Poster presentation)
湖沼では、夏季に表層の水温が高まり成層が発達すると、湖底付近に溶存酸素量の少ない貧酸素水塊がしばしば形成される。冷水性魚類は高水温や貧酸素に弱いことから、このような環境下では生息可能域が縮小すると考えられる。本研究は、①冷水性のサケ科魚類であるヒメマス(Oncorhynchus nerka)、ホンマス(O. masou)およびニジマス(O. mykiss)の湯ノ湖(最大水深12 m)における鉛直分布パターン(貧酸素耐性、高水温耐性)に種間で違いがあるかどうか、②サケ科魚類の分布がどのような環境変数と関係しているか、を明らかにすることを目的とした。
2019年および2020年8月の調査では、湯の湖の表層から底層にかけて、水温は大きく低下し(水温差7℃)、水深8m以深の底層には貧酸素水塊が形成されていた。本研究では、新たに開発したヒメマスとホンマスに種特異的なqPCRプライマーセットおよび既存のニジマスのqPCRプライマーセット(Minamoto et al. 2018)を用いて3種の環境DNAを分析した。その結果、ヒメマスとニジマスのDNAコピー数は、表水層や中層よりも水深8-11mの底層で多かった。また、そのDNAコピー数は、水温、溶存酸素濃度やpHと負の相関があったことから、2種のDNAが溶存酸素濃度の低く、冷たい底層に主に分布していることが示唆された。ヒメマスとニジマスで、種間の鉛直分布パターンに違いはみられなかった。ホンマスの環境DNAは検出されたものの、濃度が低くコピー数は検出限界以下であった。これらの結果より、夏季におけるサケ科魚類の鉛直分布は水温に主に制約され、底層付近の溶存酸素濃度が低い環境を利用している可能性が示唆された。今後、地球温暖化が進行すると、冷水性魚類の生息域はさらに縮小すると考えられる。