| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-019  (Poster presentation)

なぜ中規模撹乱仮説は河川群集では支持されにくいのか?
Why is the intermediate disturbance hypothesis rarely supported in stream communites?

*中川光(京都大学)
*Hikaru NAKAGAWA(Kyoto University)

中規模撹乱仮説の予想に反して、河川では撹乱頻度の低下に対応した種数の減少は滅多に見られない。この傾向については実証研究・理論研究からそれぞれ複数の説明が示されているが、中規模撹乱仮説の検証において従来行われてきた河川間比較による検討方法では予想されるパターンが同じため、どの説明が正しいのかを決定することができない。本研究では、局所群集の時間動態のパターンを検討することで、この問題を解決できることを提案する。Empirical Dynamic Modelingを用いて、河川脊椎動物14種の14年間の観察データをもとに、生物・非生物要因の個体群動態への影響と種内・種間相互作用の相対強度、非生物効果と種間相互作用の相対強度、相互作用行列のリヤプノフ安定性といった群集構造の時間的変動パターンを検討した。その結果、観察された群集構造の各種パラメーターのパターンは、(i) 頻繁すぎる撹乱、(ii) ニッチ分割、(iii) 相対的非線形性、(iv) 時間ストレージ効果から予想されるいずれにも合致せず、結果として、(v) 移動性の高い動物/空間的ストレージ効果が調査地の脊椎動物群集の種多様性維持機構として支持された。一方で、一部の種において調査期間中で最も大きかった2つの出水撹乱の後に、種内・種間相互作用において時間ストレージ効果の想定とよく合致する時間変動パターンが観察された。しかし、群集全体の傾向としては、時間ストレージ効果で想定される生息環境と種内・種間相互作用の状態遷移における共分散傾向は確認されなかったことから、調査地では、時間ストレージ効果は一部の種の個体群維持に貢献する可能性はあるものの、多種共存機構としての貢献は限定的であると推察された。


日本生態学会